最新記事

サイバー戦争

世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

2017年6月22日(木)10時00分
ブライアン・ムーア、ジョナサン・コラド

サイバー攻撃の持つ「曖昧さ」も北朝鮮に有利だ。韓国海軍の哨戒艦「天安」が魚雷攻撃で撃沈され、46人の乗員が死亡した10年3月の事件では、国際調査チームが物理的な証拠に基づき北朝鮮の犯行と断定した。だがサイバー攻撃では、実行者の正体を隠すか、少なくとも犯行を否認するのにそれなりの説得力を持たせることができる。

14年11月のソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのハッキングや、昨年2月のバングラデシュ中央銀行へのサイバー強盗、先月のワナクライによる攻撃は、いずれもデジタルデータの痕跡から北朝鮮ハッカーとの関連が広く指摘されている。だが決定的な証拠はなく、北朝鮮の犯行を装った別のハッカーの仕業である可能性も排除できない。

さらにリアルタイムで実行される軍事作戦とは異なり、サイバー攻撃では事前にマルウエア(悪意のある不正ソフト)を標的のコンピューターに仕込んでおき、折を見て重要な軍事・金融データを抽出することができる。31カ国の金融機関のウェブサイトが狙われた今年2月の攻撃では、昨年10月にマルウエアが仕込まれていた。

カネも北朝鮮をサイバー攻撃に走らせる強力な動機だ。ニューヨーク連邦準備銀行にあったバングラデシュ中央銀行の口座に対するサイバー強盗の被害総額は8100万ドル。4月の中国と北朝鮮の貿易総額に近い。もしSWIFTネットワークへの攻撃が成功していたら、犯人は10億ドル近くを手にしていただろう。こちらは北朝鮮の15年のGDPの6%超に相当する。

【参考記事】日本関連スノーデン文書をどう読むか

カギを握る中国の出方

北朝鮮のサイバー攻撃の高度化は、アメリカや同盟国にとって頭の痛い問題だ。北朝鮮サイバー軍を詳しく調べたコンピューターセキュリティー会社カスペルスキー・ラブスは、作戦は「衝撃的な」規模だと指摘した。

アメリカは昨年3月、「コンピューターのネットワークまたはシステムを用いて、北朝鮮国外にある標的のサイバーセキュリティーを危険にさらす重大な活動に関与した」者を処罰の対象とする大統領令を出した。財務省はこれに基づき、北朝鮮のサイバー攻撃に関与した個人や組織に制裁を科すべきだろう。

北朝鮮の弱点の1つは、インターネットへのアクセス能力に限界があるため、中国の怪しげな企業をサイバー攻撃の「発射台」に利用していることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中