最新記事

トランプ政権

共和党内は「トランプ後」に向けてそわそわ

2017年6月2日(金)09時40分
アニカ・ハグレー(ロジャー・ウィリアムズ大学助教)

無計画な超攻撃的戦法しか知らないトランプのせいでホワイトハウスは大混乱 Jean-Christophe Labarre-EYEEM/GETTY IMAGES

<トランプが失脚してペンス新大統領が誕生すれば、現政権の側近グループは退場することになる>

先日のタイム誌に、ワシントン州司法長官で世界的チェスプレーヤーでもあるボブ・ファーガソンが寄稿していた。その記事によれば、大統領令に依存したトランプ米大統領の政治スタイルは、「キングズ・ギャンビット」と呼ばれるチェスの戦法に似ているという。

これは、試合の最初にいきなり攻撃的な手を打って相手を動揺させ、それに付け込む戦法だ。事前の計画や先読みはほとんどせず、慎重な戦略もない。そのため、極めて攻撃的な戦法である半面、リスクも大きい。ファーガソンによれば、一時期は効果があったが、今は対処法が確立されているとのことだ。

トランプの行動は、この戦法しか知らないチェス初心者を思わせる。そのせいで政権は混乱に陥り、議会をまとめることもできていない。追い詰められたトランプは、苦し紛れに敵対者にかみつき始めた。

共和党内では、「次」を見据えてトランプと一定の距離を置こうとする人たちも現れている。一方、トランプの当選に大きく貢献した側近たちは、大統領失脚の場合は一緒に退場に追い込まれる可能性が高い。

大統領選でのトランプ勝利の立役者であるバノン首席戦略官・上級顧問は、新政権の政策決定で大きな役割を担うものと思われていた。しかし、政権が発足すると、たちまち脇役に追いやられてしまった。あまりにナショナリスト的、保護貿易主義的、白人至上主義的で、視野も狭かったからだ。

【参考記事】トランプ政権のスタッフが転職先を探し始めた

共和党を待つ真の試練

ナショナリスティックな政策をひたすら追求するバノンは、チェスの駒で言えば「ルーク」に似ている。真っすぐ前に突き進むか、真っすぐ後退するか以外の動きができない。これでは、強い影響力は振るえない。

目下、「キング」である大統領のために縦横無尽の活躍をしているのが、ナンバー2の「クイーン」とも言うべき存在のペンス副大統領だ。政策に関する助言役を務めているほか、大統領の言葉を「翻訳」して伝えるなどメディアとの橋渡し役にもなっている。

もっとも、この「クイーン」は「キング」を守るために身を投げ出すつもりはないようだ。共和党議員たちも、その時が来れば、新しい「キング」となったペンスの下にはせ参じるつもりでいるらしい。

もし本当に「キング」が交代すれば、ホワイトハウスの戦略は一変する。ペンス政権の下では、「キングズ・ギャンビット」は影を潜め、法の支配に挑むような振る舞いもなくなる。そして、昔から共和党の中枢にいた慎重な面々が新大統領と共に政治を動かすことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中