最新記事

ロシアの切り札

最凶な露フーリガン対策でロシアが用意した切り札とは...?

2017年5月26日(金)18時30分
松丸さとみ

欧州選手権ではイングランド側にけが人続出

こうした背景の中、2018年6月14日から7月15日まで、モスクワやサンクトペテルブルクなどロシアの主要都市で、第21回W杯が開催される。しかしロシアに応援に行こうと考えているイングランドのサッカー・ファンの脳裏に浮かぶのは、昨年の欧州選手権での騒ぎだ。

BBCは今年2月、ロシアのフーリガンにスポットライトを当てた1時間番組『Russia's Hooligan Army(ロシアのフーリガン軍団)』を放送し、イングランド・サポーターを不安にさせた。番組によると、欧州選手権でのロシアのフーリガンとの衝突で負傷したイングランド・ファンは100人以上、昏睡状態になった人も2人いたという。このため、W杯でロシアまで応援に行くのを躊躇するイングランド・ファンも少なくないだろう。そこで、イングランド・ファンを守るために、ロシア側は切り札「AlanTim(アランティム)」を用意したらしい。


デイリーメールによると、アランティムは、モスクワ工科大学(MTI)の研究者たちが開発したロボットだ。公開されたビデオ・メッセージでアランティムは、「ロシア訪問に際して、多くのイングランド・ファンが安全性について疑いを抱いていると、インターネットで読みました」とまるで英国紳士のようなアクセントの英語で話し、「私が自分の身を呈してあなたを守ります」と約束している。開発した科学者によると、アランティムは人間の感情を読み取れ、攻撃的な行動を察知し、「外交的な対話」で問題が解決しないと判断すると、警察に通報してくれるらしい。

英国紳士ロボット、イングランド・ファンの心を掴むか?

しかしどこかで見たことのある風貌だ。本サイトで2016年9月に伝えた、ロシアで逮捕された人型ロボット「プロモボット」にそっくりだ。このプロモボット、政治集会で有権者たちの意見を聞いて回って警察に逮捕されたり、公道のど真ん中でバッテリーが切れて立ち往生したり、なかなか迷惑な存在だった。

【参考記事】失敗を笑って失敗に学べ、スウェーデンに失敗博物館が登場

調べていくと、「プロモボット」とは同名の企業が所有する「プロモーション活動を行うロボット」の総称で、アランティムはその1人(?)らしいことが分かった。2015年あたりから、モスクワ・モーターショーで参加者とコミュニケーションをしたり、モスクワで開催されたテコンドーの大会で賞を授与する役目を務めたり、とイベントなどで活躍している。アランティムという英国風の名前は、「アラン・チューリング」から命名されたらしい。

ロボット工学の最新情報を発信するサイト「Robophil.com」がプロモボット社にインタビューした動画によると、2015年の時点では、プロモボットは少ししか英語を話せないとのことだった。しかし2年の時を経て、アランティムは英語をマスターし、イングランド・ファンを守るという新たな使命を与えられたということだろうか。

英国紳士風な穏やかなしゃべりとは裏腹に、アランティムの動きはぎこちなく、本当に喧嘩の仲裁に入ったり警察に通報したりできるのか、いささか疑問ではある。フーリガンの乱闘騒ぎの真っ最中にバッテリー切れを起こすことだけは、避けてほしいところだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中