最新記事

ドイツ

ドイツはメルケル4選で決まり?極右政党支持率は後退

2017年5月11日(木)17時00分
ジョシュ・ロウ

メルケルが節度と安定感で築いた名声は無傷のまま Hannibal Hanschke-REUTERS

<難民危機で人気が急落し、一時は首相4選が危ぶまれたメルケルが世論調査で見事にカムバック。だがこれで人道主義が救われたと思うのは間違いだ>

フランスは親EU派のエマニュエル・マクロンを大統領に選び、極右の対立候補マリーヌ・ルペンを退けた。9月に連邦議会(下院)選を控えるドイツでも、一時は絶望視されたアンゲラ・メルケル首相の4選が視野に入ってきた。

反移民と反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は急に人気を落とし、3党連立政権の一角でメルケルのライバルになるマルティン・シュルツの社会民主党(SPD)も、今年に入って一時支持率が急上昇したものの、徐々に後退。最近の世論調査の結果を見ると、メルケルの勝利が確実な情勢だ(ドイツでは、首相の任期に上限がない)。

昨日公表された独シュテルン誌とテレビ局RTLの世論調査では、メルケル率いる中道右派の与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の支持率が36%で、SPDの29%を上回った。

リベラルで自由貿易を支持する自由民主党(FDP)と緑の党の支持率はともに7%で、CDUと合わせれば50%。連邦議会で過半数の議席を獲得できる計算だ。連立からSPDを締め出すことも現実味を帯びてきた。

CDUは最近の州議会選挙でも健闘した。3月のザールラント州議会選での勝利に続き、7日のシュレスビヒホルシュタイン州議会選でもCDUがSPDから第1党の座を5年ぶりに奪い返した。シュルツには手痛い敗北だ。

【参考記事】地方選挙から見るドイツ政治:ザールラント州議会選挙の結果

メルケル人気が徐々に復活

メルケルの支持率は、2015年後半から2016年前半にかけて低下した。2015年9月の演説でドイツは移民や難民を積極的に受け入れると表明したのが原因だ。

演説以前からヨーロッパには大量の移民や難民が押し寄せていたが、反対勢力は難民危機を招いたのはメルケルだと批判。なかでも反移民と反イスラムを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は地方選で快進撃を続けた。

【参考記事】メルケルの寛容にテロがとどめ?

だがメルケルは苦境から這い上がった。リベラリズムと保守主義の中間を歩むことで、ドイツ政治の右から中道までで優位を固めた。AfDは失速し、支持率は7%まで低下した。

【参考記事】ドイツ世論は極右になびかない?

メルケルは保守派の有権者に配慮して、イスラム教徒の女性にブルカの着用を禁止すべきだとか、当局が難民申請を却下した難民に対する強制送還の手続きを迅速化すべきといった考えを示し、従来のリベラル路線から軌道修正した。

それでも EU最大の経済規模を誇るドイツのメルケルが、節度と安定感で築いた名声は無傷のままだ。

そもそもメルケルこそが自由世界の守護者だという認識は、昨年6月にイギリスがEU離脱を決め、11月にアメリカの大統領選でドナルド・トランプが勝つという衝撃的な2つの事件の後にメディアが広げたもの。メルケルは、あくまで老獪な政治家であって天使ではない。メルケル自身もそうしたレッテルは拒んできた。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンドのレバレッジ、5年ぶり高水準=ゴール

ビジネス

英PMI、6月は予想以上に改善 雇用削減と地政学リ

ビジネス

アングル:三菱重工、伝統企業が「グロース」化 防衛

ワールド

アングル:イラン核開発、米軍爆撃でも知識は破壊でき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中