最新記事

アメリカ社会

アーカンソー州「駆け込み死刑」論争で注目される鎮静剤ミダゾラム

2017年4月19日(水)13時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

アメリカでは死刑制度の是非をめぐる議論が続いている Jason Reed-REUTERS

<死刑執行で使われる麻酔薬が実は効いていなかったら......この恐ろしいケースはアメリカで複数報告されている事実だ>

アメリカ南部アーカンソー州が4月末の注射薬の使用期限に間に合わせるため前倒しで死刑を執行しようとし、国内外で論争を引き起こしている。連邦地裁は15日、執行差し止め命令を出した。ニューヨークタイムズなど複数のメディアが報じた。

事態が発覚したのは先月上旬。同州のエーサ・ハチンソン知事が署名した死刑執行命令書によれば、4月17~27日に8人という、前例がないほど短期集中的な死刑の執行が計画され、これに反発した死刑囚や支援グループなどは3月28日、執行停止を求めて州を相手取り訴訟を起こした。

米NPOの死刑情報センター(DPIC)によると、これほどの短期間で集中的に死刑執行が実施されれば全米でも前代未聞の事態。ここで同時に注目を集めたのは使用される薬品の危険性だ。

【参考記事】中国は今も囚人から臓器を摘出している?

鎮静剤が注目される理由

欧州を拠点にする製薬メーカーの多くが、死刑で自社製品が使用されるのを拒否する動きがある。アメリカでは代替薬として催眠鎮静剤ミダゾラムが使用されているが、麻酔の効果を発揮せず、死刑囚が苦しんで死亡するケースが相次いで報告されている。

特に2016年、米製薬大手ファイザーが「死刑執行に用いる薬品は販売しない」と宣言し、業界も強く同調。不正な販売ルートの取り締まり強化などで入手はさらに困難になった。CNNによれば、アーカンソー州も薬品の不足と法、倫理上の問題で、2005年まで死刑の執行を完全に見合わせていた。

今回アーカンソー州にミダゾラムを販売していた米マッケソン社も、販売する際の使用目的を「医療行為」に限定しており、アーカンソー州の注文を受けたとき「誤解」して販売したという。同社は13日、「アーカンソー州は、意図的にマッケソンの販売目的をかいくぐった」と声明を発表。全額返金と引き換えに薬瓶10本分のミダゾラムの返品を求めているが返品は完了しておらず、薬を取り戻すために法的措置を含め「あらゆる手段」を検討していると米CBSの取材に答えている。

【参考記事】ファイザーが死刑執行用の薬物の販売を停止

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、24%の対米関税を1年間停止へ 10%の関税

ワールド

UPS貨物機が離陸直後に墜落、4人死亡・11人負傷

ワールド

パリ検察がTikTok捜査開始 若者の自殺リスクに

ワールド

中国、輸入拡大へイベント開催 巨大市場をアピール
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中