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北京を超えた世界最悪の汚染都市ウランバートル

2017年4月5日(水)10時30分
エレノア・ロス

健康被害を減らすためには、抜本的な対策が急務だ。モンゴル政府は世界銀行などの支援を受けて「ウランバートル・クリーン・エア・プロジェクト」を立ち上げた。目標は首都での汚染物質の排出量を94%減らすこと。

エネルギー効率の良い電気ストーブを普及させるため、今年1月から電気ストーブを使う世帯に対して夜間の電気料金を免除し始めた。セントラルヒーティングを導入する世帯には、さらに大幅な減免措置を適用するという。

電気でなくとも、現在多くのゲルで使われている開放型ストーブをより燃焼効率の良い密閉型に変えるだけでも煤煙を減らせる。「開放型の問題は不完全燃焼を起こしやすいことだ」と、ドネイゼルは指摘する。ただ、密閉型の導入には「文化的な問題がある」という。ゲルの住民は開放型ストーブで調理をすることに慣れており、密閉型は使いたがらない。

【参考記事】中国とアフガン軍が狙うウイグル人掃討作戦の脅威

長期的な解決策として、モンゴル政府はゲルの住民に公共住宅を提供する計画を立てている。議会は13年に住宅整備を盛り込んだ首都の都市再開発計画を承認したが、経済が一段と冷え込んだため計画は棚上げになった。

国際的な支援を受けても、排出量の94%削減への道は遠い。「進捗の遅さに心が折れそうになる」と、アレンは言う。電気ストーブを普及させようにも、ゲルが並ぶ一帯には電気が通っていない。「首都への遊牧民の流入は止まらず、流れに逆らって泳いでいるような気分だ」

冬が終われば暖房は要らなくなり、汚染は緩和されるだろう。そうなれば人々の関心もほかの問題に向けられる。だが首都への人口流入は1年中続いており、来年の冬にはさらに深刻な汚染が首都を襲いかねない。

[2017年4月 4日号掲載]

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