最新記事

新製法

常温でセラミックスを製造する手法が開発。サステイナブル・セラミックス

2017年3月3日(金)15時50分
松岡由希子

ETH Zurich / Peter Rüegg

チューリッヒ工科大学(ETH Zürich)の研究チームは、炭酸カルシウムの微粒子に、少量の水を加え、圧縮することにより、常温でセラミックス(窯業製品)を製造する手法を新たに開発した。

標準的な産業用油圧プレスで圧縮すると、直径約2.3センチのコインサイズのセラミックスが1時間程度でできる。

この手法は、堆積岩の形成における地質作用を応用したもの。堆積岩は、長い年月をかけて石や砂、泥、生物の死骸などが積もり、その重みによる圧力で自然に押し固められながら形成される。研究チームは、このメカニズムに着目し、この新たな手法を生み出したという。

この手法で製造されたセラミックスは、変形しづらいのが特徴だ。石やコンクリートと同等の硬度を有し、その強度は、石やコンクリートの10倍にのぼる。研究チームでは、浴室用タイル程度のサイズであれば、この手法でセラミックスを製造することが理論上可能とみており、より環境にやさしい代替素材として、幅広い活用が期待されている。

セメントやレンガ、タイルといったセラミックスは、粘土や石灰岩などの原料を摂氏1,000度以上の窯や炉で高熱処理することにより製造されるのが一般的。それゆえ、その製造過程において、燃料を大量に消費し、相当量の二酸化炭素を排出しているのが現状だ。

この手法は、従来、セラミックスの製造に欠かせなかった高熱処理が不要となるため、エネルギー消費や二酸化炭素の排出量を軽減できるのはもちろん、大気中の二酸化炭素や火力発電所の排ガスなどから、その原料となる炭酸カルシウムを生成することにより、二酸化炭素を長期にわたってセラミックスの中に閉じ込めることが可能になる。

つまり、カーボンニュートラルの実現に向けたソリューションとしても有望な手法というわけだ。

【参考記事】アイルランド下院、化石燃料からの投資撤退法案を世界で初めて可決

高熱処理によらない新たなセラミックスの製造手法としては、米ノースカロライナ州のスタートアップ企業bioMASONでも、サンゴ礁の形成プロセスにならい、細菌がもたらす水素イオン濃度指数(pH)の変化で結晶化させ、砂からレンガを生成する手法を開発している。

地球温暖化や環境保護の観点から、セラミックスの分野においても、より環境負荷の低い製造手法への探究が、世界各地でまだまだ広がりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中