最新記事

米軍事

イエメンでの対テロ作戦はトランプ政権の失点なのか

2017年2月10日(金)10時00分
ジョシュア・キーティング

内戦が続くイエメンでは多数の市民が巻き添えに Naif Rahma-REUTERS

<新大統領による米兵と民間人の犠牲に怒る人たちは、オバマの同じ失敗には目をつぶっていた>

トランプ米大統領は先月末、就任後初めて米軍の対テロ作戦にゴーサインを出した。イエメンのアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」を標的にした急襲作戦だ。だが詳細が明らかになるにつれ、情報も準備も不十分だったことが分かってきた。

この作戦ではSEALs(米海軍特殊部隊)の隊員と米国籍の8歳の少女が死亡したほか、民間人多数が巻き添えになった。少女は11年にCIAの作戦で殺されたアメリカ人AQAP幹部アンワル・アル・アウラキの娘だ。民間人が犠牲になったことで、リベラル派はトランプ政権の責任を厳しく追及している。

トランプの判断が賢明だったか軽率だったかは分からない。今回の作戦はオバマ前政権が任期終盤に立案し、実施上問題があったために延期したものだ。バラク・オバマが今も大統領なら実施を承認しなかった可能性もあり得る。

作戦実施を決めたのが、トランプに加え、スティーブ・バノン首席戦略官、ジャレッド・クシュナー上級顧問、マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官と強硬派ぞろいだったことも気になる(ただし報道によれば、トランプの暴走を抑えてくれるとリベラル派が期待していたマティス国防長官もこの会議に出席していた)。

【参考記事】南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?

それでも、これだけは言いたい。11年にオバマ政権下のCIAがドローン攻撃でアウラキとその16歳の息子を続けて殺害したときには、今回ほど激しい怒りの声は上がらなかった。当時の前大統領報道官ロバート・ギブスは、少年が死んだのは父親のせいだと発言したが非難されなかった。

病院空爆にも抗議せず

トランプ政権は対テロ作戦の実施で「決定プロセスを迅速化」する意向だと、ニューヨーク・タイムズは報じている。

トランプ政権のこうした動きが許せないと叫ぶ人々は、同じ新聞がオバマ時代に伝えた事実に異議を唱えただろうか。同紙によれば、米軍の作戦による民間人の犠牲者数を発表する際に、「戦闘地域にいる兵役年齢の男性をすべて戦闘員と見なす」という問題のある集計方法を採用したのはオバマにほかならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中