最新記事

日米関係

トランプ大統領への「手土産」日米雇用イニシアチブ、どこまで有効か

2017年2月8日(水)16時57分

この点に関連し、アジア開発銀行研究所の吉野直行所長は、ある手法を提案している。インフラ建設による活性化で増えた地方税収の2割程度を、投資家に還元するシステムだ。吉野所長は、トランプ政権にも影響力を持つCSIS(米戦略国際問題研究所)に対し、投資利回りが16─30%強上がった実証例も含めた提案をしている。

日本の民間金融機関にも、特定のインフラ事業向けのファンドパッケージを投資家に販売し、政府の「イニシアチブ」により、小口のファンドをとりまとめて大規模化する手法に期待する声もある。

運用難の地方金融機関などが歓迎するとみられ、相当規模の資金を米側に提供できる仕組みも可能となりそうだ。

経済効果に冷ややかな分析

一方で、トランプ大統領が選挙中に示してきたインフラ投資計画への期待は、足元で後退している。

UBS証券が今年1月末に米国で発表したリポートでは「インフラ投資計画の優先度・実現度は、低いないしは中程度。規模も大統領が掲げる10年間で1兆ドルの半分以下にとどまり、経済効果もわずか」との見方を示している。

それ以外にも、いくつかの問題点がある。1つは財源問題だ。米シンクタンク・Tax Policy Centerの試算によれば、法人税減税の15%への引き下げ実施だけで、10年間で6.1兆ドルの税収減となる。

さらに10年間で1兆ドルのインフラ投資を財政で賄うことは「均衡財政を主張する共和党の理解が得られそうにない」と、野村総研の井上氏は指摘する。

経済効果発揮までのリードタイムの長さが障害になるとの指摘もある。米議会予算局がオバマ政権の「アメリカ復興・再投資プラン」を対象に検証したところ、財政投入までに2、3年かかったケースが多かった。

州政府の管理コスト削減のため  支払いが遅れがちになった州が複数あったり、環境アセスメントに時間がかかってたことなどが、同予算局のリポートで指摘されている。

トランプ大統領は、いまだにインフラ投資の具体的案件や優先順位を明示しておらず、実際の着工までにかなりの時間がかかりそうだ。仮に大統領1期目の任期中に経済効果が出てこないようだと、大統領の威信にも影響が出かねないとの声も、一部の東京市場関係者から出ている。

日米首脳会談で日本提案のイニシアチブ採用で一致したとしても、実際にどの程度の経済効果が出てくるのか、不透明な要因が山積みになっている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

[東京 8日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

ビジネス

リオ・ティント、コスト削減・生産性向上計画の概要を

ワールド

中国、東アジアの海域に多数の艦船集結 海上戦力を誇

ワールド

ロシアの凍結資産、EUが押収なら開戦事由に相当も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中