最新記事

宇宙実験

多剤耐性菌「MRSA」をロケットで打ち上げへ:宇宙で突然変異を実験

2017年2月13日(月)15時00分
高森郁哉

zmeel-iStock

起業家のイーロン・マスク氏が率いる米民間宇宙企業スペースXは2月14日、同社のロケット「ファルコン9」を打ち上げる。ロケットには多剤耐性菌として知られるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を積載し、実験のため国際宇宙ステーション(ISS)に運ぶ予定だ。

米経済メディア「フォーブス」などが報じている

MRSAとは

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌とは、抗生物質のメチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌のこと。黄色ブドウ球菌は、ヒトや動物の皮膚、消化管内などの体表面に常在する菌で、傷口などから体内に侵入した場合に感染症を引き起こし、敗血症、髄膜炎といった重病の原因ともなる。

1940年代に量産に成功した抗生物質ペニシリンが黄色ブドウ球菌の治療に有効だったが、その後ペニシリン耐性株が出現。これに対抗するためメチシリンが開発され、1960年頃から治療に使われるようになったが、まもなくメチシリンにも耐性があるMRSAが確認された(参照:国立感染症研究所「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症」)。

シカゴ大学医学MRSA研究所の情報によると、米国では毎年9万人がMRSAの感染症を発症し、約2万人が死亡しているという。

NASAが支援する実験

今回の実験を率いるのは、ナノ生物物理学の権威で、マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置くナノバイオシム社のCEOを務めるアニタ・ゴエル博士。米航空宇宙局(NASA)が後援する研究の一環で、微重力のISS内の環境でMRSAを培養することにより、菌の突然変異が加速する可能性があるとしている。

NASAは、突然変異のデータを分析することで、「有毒な細菌が薬剤耐性を獲得する仕組みについて知見を得られるとともに、対抗する新薬の開発に役立つことが期待される」と述べている。

ちなみに、スペースXのファルコン9は昨年9月、米フロリダ州ケープカナベラル空軍基地にある発射台で燃焼試験中に爆発している。今回の打ち上げでは、爆破事故を起こしてMRSAをばらまいたりしないことを祈ろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中