最新記事

日本

「ガイジン専用」という「おもてなし」

2017年1月27日(金)15時09分
田所昌幸(慶應義塾大学法学部教授)※アステイオン85より転載

tekinturkdogan-iStock.

<訪日外国人向けタクシー専用乗り場設置の実証実験を開始した京都で、猛烈に不愉快な気持になった。「ガイジン」を隔離して「おもてなし」するのは、単純にばかげている> (写真は本文と関係ありません)

 猛暑の八月の京都でのことである。京都駅で連れとタクシーに乗ろうとしたところ、後ろの車へとドライバーから合図された。理由も確かめずにそれに従ったのは、私の失敗だった。タクシー乗り場の案内係の若い男性から、「外国の方はこちらにご案内してます」と言われた。京都ではこの三月から「全国初となる訪日外国人向けタクシー専用乗り場を設置する実証実験を開始 」(1)したとのこと。私の連れが、大きな荷物を持った長身の「ガイジン」なので、FF(フォーリンフレンドリータクシー)と称する乗り場に行くように言われたことに、そこでようやく判った。

 猛烈に不愉快な気持になったのは、私がおかしいのだろうか。ホテルに行くタクシーに乗るのに、「ガイジン」は専用乗り場に行かないといけないのだろうか。これではまるでアパルトヘイトではないか。おそらく制度の趣旨は、日本語の不自由な外国人の便宜を図ることなのだろう。だが私の連れは、日本語は話せるし、おまけに私(ごくフツーの日本人)も一緒なのだから、ますます不可解である。これは単なる乗車拒否ではないか。ところが、役所が利用者からサンプルをとったアンケート結果(2)は「大好評」だそうで、「めでたしめでたし」と総括されそうである。

【参考記事】京都市の大胆な実験

 当日乗ったタクシーのドライバー(二名)に尋ねてみると、件のドライバーの対応はヘンだと口をそろえた。乗車拒否されたタクシーが特定できないので苦情処理の窓口に申し立てるのはあきらめたが、事情を知った知人がわざわざ当局まで問い合わせてくれた。結果は、専用乗り場を利用するかどうかはあくまで顧客の自由で、一部ドライバーがそちらに行くように言うのは不適切、という見解だったそうだ。不心得なドライバーに遭遇した不運だという訳である。

 そうだろうか? どんな制度にも、設計者の意図とは違う効果が出ることがある。実は後で乗ったタクシーのドライバーの言っていることには、日本人の私が一緒なのにそれはおかしいというニュアンスもあり、外国語で、正確な住所が判らない場所を指定されて苦労している、一部のドライバーが外国人対応を敬遠しているということも伺えた。もしそういう背景があるのなら、この制度は一般のタクシー乗り場で乗車拒否が起こるのを助長していることになりはしないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中