最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

オバマが任期最後に発効させた「ガン戦争」法案

2016年12月27日(火)16時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

 アメリカでは、ニクソンのスピーチから45年でガン対策はどれだけの成果を挙げてきたのか。ニクソンの「ガン戦争宣言」により、米国立がん研究所には累計で約900億ドルが投資され、研究費などは飛躍的に増加した。さらにガンに特化した研究機関などの非営利組織も増加し、その数は心臓病や脳卒中、アルツハイマー病のための組織の合計数よりも多い。

 その成果として、米疫病対策センターや米国立がん研究所によれば、癌を克服した人の数は1971年に比べて4倍に増加している。例えば、腎臓ガンの5年生存率は当時の50%から現在は70%になり、結腸ガンの生存率は52%から66%に向上している。さらに治るガンも増えている。

 それでも、今年アメリカでは168万人以上がガンと診断され、59万人がガンで死亡している現実がある。残念ながら、アメリカはガンとの戦いでまだまだ優位に立ったとは言えない状況にある。もちろん、以前よりガンについて圧倒的に「理解」できるようにはなっているが、まだガンを医療で制圧できるところにまでは至っていない。だからこそ、オバマはバイデンを中心に、国を挙げて、次なるガンとの戦いを宣言したのだ。

【参考記事】遅刻魔プーチンの本当の「思惑」とは

 ちなみに、このムーンショットと言うプロジェクト名は、ジョン・F・ケネディ大統領時代の月探査ロケットの打ち上げプログラムの立ち上げから生まれた言い回しだ。つまり国を挙げて挑戦するプロジェクトを意味している。

 人類が直面する脅威には様々あるが、その中でもガンは数多くの人を死に追いやる強敵だ。アメリカにとどまらず、世界中の国々が知見を持ち寄って、ガンという共通の敵に立ち向かう「全面戦争」に乗り出す時ではないだろうか。

【執筆者】
山田敏弘

国際ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などで勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)。現在、「クーリエ・ジャポン」や「ITメディア・ビジネスオンライン」などで国際情勢の連載をもち、月刊誌や週刊誌などでも取材・執筆活動を行っている。フジテレビ「ホウドウキョク」で国際ニュース解説を担当。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ

ワールド

IEA、石油供給不足なら備蓄放出の用意 OPEC「

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中