最新記事

東南アジア

悪名高き軍がミャンマーで復活

2016年11月29日(火)10時40分
ボビー・マクファーソン

magw161129-02.jpg

難民キャンプのロヒンギャの人々 Soe Zeya Tun-REUTERS

 軍のでっち上げを裏付ける証拠はない。しかし、非営利の人権監視団体フォーティファイ・ライツの創設者であるマシュー・スミスによれば、「軍がこの状況を利用して、自分たちに好意的な感情を高めようとしていることは間違いない」。

文民政権も軍を黙認?

 襲撃事件への対応で軍の人気が高まっているのを尻目に、目立った対応をしていない文民政権はいかにも無能に見える。実質トップのスー・チー(役職は国家顧問兼外相)も、彼女の側近として大統領を務めるティン・チョーもラカイン州を訪れていない。

「ミャンマーには2つの政府が存在している。文民政権と軍事政権だ」と、国際NGO「人権のための医師団」のウィドニー・ブラウンは言う。国防省や内務省、警察、移民・人口問題省といった重要機関は、今も軍が押さえているのが現状だ。

「国境地帯では軍の影響力が強い」と、ブラウンは言う。「そこへもって反乱への不安が高まっているため、ラカイン州北部は文民政権ではなく軍のコントロール下にある」

 それでも、マウンドーの事件の前は、文民主導で平和に向けた動きが前進しつつあった。文民政権は軍の強硬な抵抗に遭いながらも、ラカイン州の宗教対立に関する諮問委員会の設置にこぎ着けた。コフィ・アナン前国連事務総長を委員長とする同委員会は、同州で現地調査を実施し、来年後半に諮問を答申することになっている。

【参考記事】ミャンマー新政権も「人権」は期待薄

 その雲行きが怪しくなってきた。「アナンを委員長に起用したのは、人権侵害に光を当てて、何らかの和解の環境を整えようという意図だったが」と、ブラウンは説明する。「委員会が影響力を持つ可能性は、もともと限られていた。あくまでも諮問機関にすぎないし、最近のラカイン州の動向により、委員会が成果を上げるチャンスが失われた恐れがある」

 文民政権が軍に対して無力だという可能性以上に気掛かりなのは、文民政権が軍の行動に暗黙の了解を与えている可能性があることだ。スー・チーがロヒンギャについてどう考えているかは誰も分からないが、問題解決に動いていないとして批判されていることは間違いない。

 襲撃事件の後に国営メディアは、軍による人権侵害が横行しているという「でっち上げ」の批判を厳しく非難する意見記事を掲載。民間のジャーナリストたちがテロリストと「グルになっている」と糾弾した。国営メディアを管轄する通信・情報技術省は、文民政権の影響下にある政府機関だ。

 大統領府のゾー・テイ報道官はフェイスブックで、英字紙ミャンマー・タイムズの記者を名指しで批判した。軍によるレイプ疑惑を報じた女性記者だ。その後、記者は解雇されたが(軍事政権時代からの高官である同報道官が同社に直接電話を入れたとされる)、スー・チーの指示で職にとどまることになった。

 最近、同報道官は内輪の席で、ラカイン州のロヒンギャをめぐる問題について政府と軍は「協力している」と述べた。「両者の方針は同じだ」

From Foreign Policy Magazine

[2016年11月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツの洋上風力発電事業、中国製タービン取りやめ国

ビジネス

独ポルシェ、傘下セルフォースでのバッテリー製造計画

ビジネス

米テスラ、自動運転死傷事故で6000万ドルの和解案

ビジネス

企業向けサービス価格7月は+2.9%に減速 24年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中