最新記事

インドネシア

スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か

2016年11月28日(月)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 沈没した艦船は船体に使用されている大量の鉄などの金属のほかにスクリューに使われている銅合金、船内の設備に使われている各種金属などが資源業者にとっては「まさに資源の宝庫」とされ、沈船調査業者と組んで回収を進めている。このため「沈没したことだけは知られているものの、その正確な位置が公になる前にすでに回収され、消えた船体もかなりあるのでは」(地元記者)と言われている。

沈船は誰のものか

 インドネシアでは激戦地ビアク島などで戦死した日本兵の遺骨収集に関連して教育文化省が「インドネシア領土に過去50年間埋められていたものは文化財とみなす」との国内法の壁に阻まれて「日本兵の遺骨といえどもインドネシアの文化財である」と一時、遺骨収集事業が頓挫したこともある。このため、インドネシア側が今後、海洋当局の調査と別に教育文化省などが戦没者の遺骨同様に「50年を経過した沈没船舶とその積載物、船内の遺骨はインドネシアの文化財」と主張する可能性もあり、調査の行方は全く不透明だ。

 沈没船舶の所有権に関しては国際海洋法上などの関係条約上でも軍艦を含めてその旗国と領海国、沿岸国の主権国との間の権利関係が必ずしも明確に規定されていないとされる。

「沈没海域が内水及び領海なのか、公海なのか」、「沈没船舶が私船なのか軍艦または他の国家船舶なのか」「沈没原因が海難事故なのか戦闘行為の結果なのか」によって法的解釈や適用法律が複雑になるため、一律に取り扱えないという実情もある。

 そのため特に戦時中の沈没軍艦に対しては英やオランダ国防省が主張する「戦死者の鎮魂」という特別な解釈による扱いが求められているが、インドネシアの資源業者には「単なる金属資源の塊」としか沈没軍艦は映らないという現実もある。

 消失した軍艦内部に残されていたと推定される戦死者の遺骨については「すでに海底に散乱して収集も慰霊も困難」との見方が有力で、インドネシア政府としては当該軍艦を回収処理した業者の追跡、摘発と遺骨の行方に関する調査、さらに類似事案の再発防止に全力を注ぐ以外には具体的な対処法方法はないといわれている。

 米英オランダの沈没軍艦・潜水艦にとっては戦時中の沈没、戦後の船体回収・解体と「2度の災難に見舞われたこと」になり、戦死者の遺族や関係国の海軍関係者にとっては心の痛む出来事といえ、一刻も早い国際的な規範作りが必要だろう。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(3日付記事)-ユーロ圏インフレリスク、下向き

ワールド

ウクライナ首都に大規模攻撃、米ロ首脳会談の数時間後

ワールド

中国、EU産ブランデーに関税 価格設定で合意した企

ビジネス

TSMC、米投資計画は既存計画に影響与えずと表明 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中