最新記事

日本社会

過労による自殺問題、残業規制を改革の俎上に

2016年11月14日(月)11時07分

 近年、政府は労働関連法を改正し、労働時間の短縮を奨励しているが、このような措置をめぐっては、自主規制にあまりに頼り過ぎているとの批判も上がっている。

「長時間労働が、若い雇用者の能力形成に必要だという意識の問題がある」と、みずほ総合研究所の主任研究員である大嶋寧子氏は指摘。「人件費が90年代から合理化されてきたので、1人当たりの負担が拡大してきた」と同氏は語る。

生きがい

 電通が長時間労働で責任を問われたのは、高橋さんのケースが初めてではない。

 最高裁は2000年、電通社員が長時間労働からうつ病となり、1991年に自殺したのは同社に責任があるとの判断を下した。

 電通の石井直社長は、10月17日に社員に送った電子メールのなかで、高橋さんの自殺を受け、同社が刑事訴追を受ける可能性に直面していると説明。ロイターが入手したメールのコピーによると、同社は残業の上限時間を月70時間から65時間に引き下げるとしている。

 電通はロイターに対して当局と協力していると述べ、それ以上のコメントは差し控えた。

 高橋さんの遺族側弁護士は、電通を告訴するかどうかについてコメントしなかった。また、遺族は取材要請を拒否した。

 高橋さんの死によって、過労死と職場における嫌がらせという難しい問題に再び注目が集まっている一方で、政策立案者は労働に関する他の課題に対処しようとしている。

 東京大学を卒業し、就職してから数カ月後、高橋さんは自身の外見を男性上司からけなされること、睡眠時間がわずか2、3時間であること、日常的に週末も働いていることなどについて、ツイッターでつぶやき始めていた。

「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」(原文ママ)と 昨年12月17日、高橋さんはツイッターでこう記している。

 クリスマスの12月25日、高橋さんは社員寮から飛び降りた。

「娘は二度と戻ってこない」。高橋さんの母親の言葉を国内メディアが先月報じた。「命より大切な仕事はない。過労死が繰り返されないよう強く希望する」

 (Stanley White記者、笠井哲平記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

[東京 4日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、バイナンス創業者に恩赦 仮想通貨推進鮮

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、4万9000円回復 米ハ

ワールド

英国王とローマ教皇、バチカンで共に祈り 分離以来5

ワールド

EU首脳、ウクライナ財政支援で合意 ロシア資産の活
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中