「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知られざるエネルギー変革...環境「以外」の目的とは?
ENERGY SHIFT IN SMALLER NATIONS

モルディブの島 Nattu Adnan-Unsplash
<ついに石炭を上回った世界の再生可能エネルギー発電量。変革が「途上国でこそ」急加速している理由とは?>
再生可能エネルギーによる世界の発電量が2025年前半、初めて石炭を上回った。国際エネルギー機関(IEA)が予測する歴史的な転換が現実になろうとしている。
ただし、その進展は一様ではない。化石燃料からの移行は、アメリカとEUでは鈍化しているが、途上国では急加速している。中国はその圧倒的な規模が注目を集め、一方で小さな国々でもクリーンエネルギー、電気自動車(EV)、蓄電池の導入などが驚異的なスピードで進んでいる。
重要なのは、目的が気候変動対策だけではないことだ。背景には、高価な化石燃料への依存や国際市場の変動リスクを減らすこと、不安定な電力網への依存からの脱却、生活の質を高める手段の模索など、さまざまな圧力や機会がある。
そこで、普段はあまり注目されることのない南アジア4カ国の取り組みを紹介する。
ブータン
ヒマラヤ山脈に囲まれた内陸国のブータンは水力発電に依存している。発電所の多くは河川の流れをそのまま利用する流れ込み式で、大規模なダムがない。そのため河川流量が低下する冬季、特に1~4月は発電量が急減する。
一方、急速な工業化で電力需要が増大し、冬季は電力が不足するようになった。
冬の間、ブータンはクリーンエネルギーの輸出国から輸入国へと変わり、インドから電力を購入する。ただし、輸入は長期的な解決策ではない。
年間を通じて安定供給を確保するために、政府はエネルギー源の多様化を進めている。その一環として最大300メガワットの太陽光発電設備が、早ければ来年にも稼働する。
ネパール
山岳国のネパールは水力発電が中心だが、石油製品は全てインドから輸入してきた。しかし、15年にインドがネパールの新憲法に反発して国境を事実上、封鎖し、物流が途絶えた。燃料価格は高騰して、人々はガソリンスタンドに数日間並ばなければならず、公共交通は麻痺した。
政府は18年に、EVへの移行で燃料の輸入依存からの脱却を目指す大規模な計画を発表した。首都カトマンズの深刻な大気汚染も軽減されるという。30年までに通勤用の新車販売(人気の高い二輪車を含む)の90%のEV化を目指す。
しかし、今年9月に反政府デモが激化して政権が崩壊した。安定したエネルギー政策とインフラ投資が急務だ。
スリランカ
22~23年にスリランカは深刻な経済危機に見舞われた。燃料不足、1日12時間の停電、140%を超える電気料金の引き上げ。50万人の国民が料金を払えず送電網から切り離された。
スリランカの電力の約50%は再生可能エネルギーで賄われており、その多くが水力発電だ。政府は太陽光と風力発電の導入を急いでおり、30年までに再生可能エネルギーの比率を70%に引き上げることを目指す。
再生可能エネルギーの供給の信頼性を高めるために、貯蔵技術と高度な管理システムを送電網に統合する必要があり、AI(人工知能)を活用したシステムの開発も進んでいる。
モルディブ
1000以上の島々にまたがるモルディブの発電は輸入ディーゼルに依存しており、高い輸送コストと原油価格の変動にさらされている。
政府は30年までにネット・ゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を達成する一環として、15年から「持続可能なエネルギー開発のための外縁諸島整備プロジェクト」を開始。貧しい地域である約160の島々でディーゼル発電機から太陽光発電、蓄電設備、改良型送電網への転換を進めている。
これらの国は目立たないが、独自のやり方で逆境を機会に変えようとしている。
Reihana Mohideen, Principal Advisor, Just Energy Transition and Health, Nossal Institute for Global Health, The University of Melbourne
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
レイハナ・モヒディーン
REIHAN MOHIDEEN
豪メルボルン大学のノッサル・グローバルヘルス研究所主任アドバイザー。電気技術者であり、持続可能なシステムへの移行のための社会技術的手法に関心を持つ。著書に『女性とエネルギー革命』。

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