最新記事

アジア

中比首脳会談――フィリピン、漁夫の利か?

2016年10月21日(金)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ドゥテルテ大統領が初の訪中、習近平国家主席と会談(10月20日) Ng Han Guan-Reuters

 訪中したドゥテルテ大統領は20日、習主席、李首相らと会談し、中国から多額の経済支援を引き出す一方、南シナ海問題に関しては棚上げを決めた。25日から訪日することで漁夫の利を得る彼は、中国のペースに乗っている。

習近平国家主席の前でオドオドしていたドゥテルテ大統領

 20日に「国事訪問」として最高級の扱いを受けたフィリピンのドゥテルテ大統領は、閲兵式でやや肩を丸めて首をすぼめている感じだったが、習近平国家主席との対談の時には、見たこともないほど委縮していた。

 習主席が前を向きながら堂々と話しているときに、ドゥテルテ大統領は、まるでオドオドしているように目をしばたかせながら、謙虚に聞いていた。

 ようやくドゥテルテ大統領の話の順番になると、うつむいたまま、ひたすら原稿を読むありさま。「どうした?」と声を出しそうになるくらい、いつもの横暴とも豪胆とも言える彼の顔はない。

 本来なら南シナ海問題で中国に譲歩してあげているのだから、フィリピンの方が上から目線で大きな態度を取っていていいはずだが、そこにあるのは「チャイナ・マネーを頂く側の姿」でしかなかった。

 中国側は南シナ海の領有権に関して中裁裁判所の判決を覆し、金で解決できるのなら何でもしましょう、とばかりに、大量の資金提供を申し出ただけでなく、党内序列ナンバー1の習近平(国家主席)、ナンバー2の李克強(首相)、そしてナンバー3の張徳江(全人代常務委員長)と、異例の厚遇で続けざま面談を準備し、ドゥテルテ大統領を圧倒した。

 支援の仕方も、ドゥテルテ大統領の泣き所をつかんでいる。

支援の仕方

 支援の仕方に関しては10月14日付け本コラム「中国を選んだフィリピンのドゥテルテ大統領――訪中決定」にも書いたように、中国はもっぱら「大型麻薬中毒者治療センター」設立の支援に重点を置いている。今般も経済支援の規模は全体で135億ドル(約1兆4000億円)なのに、そのうち麻薬中毒患者治療センターには90億ドル(約9330億円)を注いでいる。

 麻薬撲滅は、ドゥテルテ氏が選挙公約に掲げた最大のスローガンだった。国内に400万人もの麻薬使用者がいるようだ。なんとしても撲滅させなければ国が滅ぶ。大統領としての威信がかかっている。それ(容赦のない摘発と処刑)に対してオバマ大統領は人権問題を持ち出して非難した。

 そうでなくともフィリピンはかつて長いことアメリカの植民地だった。だからオバマ発言に対して「お前は何様だ。俺の国はお前の属国ではない」という趣旨の言葉を繰り返し、遂にはオバマ大統領に「地獄に落ちろ」という暴言まで吐いたわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

レアアース調達難深刻、EUは中国に圧力を=独機械工

ワールド

イラン、中東緊張でもウラン濃縮放棄せず=政府筋

ビジネス

投資ファンドの3D、スクエニHD株の保有9.79%

ワールド

サウジ皇太子、G7サミットに出席せず=外交筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 5
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 6
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 7
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 8
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 9
    みるみる傾く船体、乗客は次々と海に...バリ島近海で…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中