最新記事

アジア

中比首脳会談――フィリピン、漁夫の利か?

2016年10月21日(金)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 そのため、アメリカに痛手を負わせてやろうと、本来なら「訪日」が先だったのに、「訪中」を先に選んだのである。

 この「順番」が重要だ。

日中の間で「漁夫の利」か

 実は今年8月11日に岸田外務大臣がフィリピンを訪問し、ドゥテルテ大統領に会っている。国交正常化60周年に当たり、さまざまな支援を約束するとともに、「ぜひとも訪日を」という申し出もしていた。詳細は外務省のホームページにある。

 中国やフィリピンのメディアによれば、水面下における中国からの呼びかけはあったものの、少なくとも9月22日の時点では、まだ訪日を先にする可能性が残っていた。

 ところがオバマ発言に激怒したドゥテルテ大統領は、10月に入ってから「中国を先に訪問する」と宣言したのである。

 となれば、日本としては「少しでも日本に引きつけよう」と、フィリピンが喜ぶ条件を出すことだろう。

 中国も負けじと、ドゥテルテ大統領が25日からの訪日の際に、天皇陛下に拝謁することに対抗して、党内序列ナンバー1、ナンバー2、ナンバー3と、トップ3を揃えての順次の会談となったわけだ。このような異例の厚遇をしたのは、「天皇陛下拝謁」と関係している。

 もし訪日を先にしていたならば、日米同盟があるので、アメリカへの打撃は少ない。

 その場合、フィリピンが日本を選んだということにより、アメリカを拒否してないというニュアンスでアメリカが受け止める可能性がある。

 訪中を優先すれば、アメリカに対する打撃は大きい。

 ドゥテルテ大統領は、20日午後のビジネスマンを対象としたフォーラムで「アメリカから中国に鞍替えする」とまで言ってしまった。司会をしたのは党内序列ナンバー7の張高麗国務院副総理。ランクがこの辺りまで落ちてくると、リラックスしたのか、「ドゥテルテ節(ぶし)」が出てきたわけだ。

中比間の南シナ海問題棚上げによる地殻変動

 日米は領土問題で中国と闘う(はずの)フィリピンを支援し、南シナ海で覇権を進める中国を牽制しようとした。

 しかし、そのフィリピンが中国と手を打ってしまうのでは、元も子もない。

 南シナ海問題は棚上げし、話し合う必要が生じたときには、二国間で友好的に話し合うことで一致した。輸入禁止にしていたフィリピンのバナナなどの農産物も解禁となり、インフラ建設やAIIB(アジアインフラ投資銀行)による投資も取り付けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中