最新記事

欧州難民危機

スウェーデン亡命センターで自死、目的地に着いた難民少年は何故絶望した?

2016年10月5日(水)19時14分

 しかしまだ移民局の誰とも会えないままでいた。

 友人たちによれば、アンサリさんは何時間も自室にこもるようになり、笑顔が消え、学校にも行かなくなり、やせていったという。

 センターや地方当局作成の文書によると、医師がアンサリさんの分類を「コードレッド」に変えたのは、3月ごろだった。それは自殺や暴力的・脅迫的行為に及ぶリスク、あるいは脅迫や暴力を受ける恐れがあることを意味する。

 4月6日の朝、アンサリさんはようやく移民局と面接できることとなった。アンサリさんと後見人のヤシンさんは南部ベクショーに向かった。到着すると、移民局が間違ってアンサリさんの担当官をマルメに派遣していたことが判明した。ベクショーからマルメまでは、車で2時間以上かかる。移民局は誤解が生じていたとし、新たに面接日を5月3日に設定した。

 ヤシンさんは翌日7日、アンサリさんから「具合が良くない」との携帯メッセージを受け取った。そのメッセージは数回送られてきたという。

 それから数日後、少年たちは、センターでサッカーの欧州チャンピオンズリーグを一緒にテレビ観戦しようとアンサリさんを誘った。観戦中、職員が投薬のためアンサリさんを呼んだ。クルベルク氏が覚えている限りでは、アンサリさんは自分で自室に行き、職員が薬を持って彼の部屋を訪れたという。

 アンサリさんが自殺を図ったのはその日の夜だった。

 カールスハムンで、アンサリさんは、アフガニスタンの言葉とアラビア語で名前が刻まれた2人の墓の隣に眠っている。墓地内にある他の墓とは離れた場所だ。その場しのぎの墓石には、彼の名前を記した紙がビニール袋に入れられて貼られていた。

 (Sven Nordenstam記者、Benjamin Lesser記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

[スバングスタ(スウェーデン) 22日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東部要衝ポクロフスクで前進とロシア、ウクライナは包

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株安の流れ引き継ぐ 

ビジネス

世界のヘッジファンド、55%が上半期に仮想通貨へ投

ワールド

米政府機関閉鎖巡り与野党の対立解消見えず、7日に1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中