最新記事

欧州難民危機

スウェーデン亡命センターで自死、目的地に着いた難民少年は何故絶望した?

2016年10月5日(水)19時14分

 未成年者がパスポートを持たずに到着すると、スウェーデン当局は通常、申告された年齢に基づき誕生日を与える。アンサリさんは16歳だと伝え、当局は誕生日を1999年7月24日に決めた。

 当時、保護者のいない18歳未満の亡命希望者が、スウェーデンに家族を呼び寄せることは比較的簡単だった。

 16歳と申告したことで、家族を呼び寄せるための猶予期間2年のカウントダウンが始まった。

新たな生活

 アンサリさんが亡命希望の少年20人と共同生活を送っていた、政府が運営する2階建てレンガ造りの建物は、ブレーキンゲ地方のスバングスタにある。少年たちの出身国は、アフガニスタン、シリア、ソマリア、エリトリア、モロッコ、イランとさまざまだ。

 このセンターの運営責任者であるサンティ・クルベルク氏は、最初の健康診断でアンサリさんに特に異常は見られなかったと語る。

 同氏によると、アンサリさんは保守的で、政治と宗教について議論するのが好きだった。また時には、女性はあまり肌を露出すべきではないと語ったり、女性職員と握手するのを嫌ったという。女性との握手は禁じられているとし、代わりに手を自分の胸に当ててあいさつをしていた。

 少年たちは、バスで30分ほどの場所にあるカールスハムンの学校に通った。新しい生徒は、スウェーデン人とは別の階で、スウェーデン語の集中プログラムを受ける。アンサリさんは水泳のクラスを取り、街にあるモスクにも通っていた。

 未成年の亡命希望者は政府から住居を提供され、親としての法的役割を務める後見人がつけられる。彼らが18歳になるまで、あるいは居住が認められるようになるまで、亡命申請手続きを支援し、経済的に面倒を見る。法定後見人には子ども1人につき、1カ月約2000スウェーデンクローナ(約2万3000円)が支給される。

コードレッド

 アンサリさんのスウェーデン滞在が2カ月を超えた昨年10月、手続き開始のため、移民局と面接するはずだった。当時、同国に到着した亡命希望者の数は数カ月で7万人以上に達していた。アンサリさんの後見人となったモハメド・ヤシンさんは、移民局から面接を延期せざるを得ないとする通知を受け取った。そこには新たな面接日は記載されていなかった。

 冬が近づき、日照時間が短くなるなか、パリ同時攻撃の容疑者が難民にまぎれてギリシャ経由でフランスに入国していたことが明らかとなった。アンサリさんの友人のなかには、本国に送還しやすくする作戦としてスウェーデン当局が申請手続きを遅らせるかもしれないと心配する人もいたという。

 移民センターのクルベルク氏によると、春が近づくにつれ、アンサリさんは欧州の習慣を受け入れ始めた。女性職員からの握手やハグすらも受け入れるようになったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中