最新記事

アフリカ

ICCを脱退する南アフリカはもうマンデラの国ではない

2016年10月24日(月)18時43分
アントン・ドゥプレシ(南ア安全保障研究所専務理事)、サイモン・アリソン(マーベリック紙アフリカ特派員)

スーダンのバシル大統領(右)と握手する南アフリカのズマ大統領 Mohamed Nureldin Abdallah-REUTERS

<アパルトヘイト(人種隔離政策)を終わらせたネルソン・マンデラの国、南アフリカが、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている独裁者を逃がしただけでなく、ICCから脱退するという。何という堕落ぶりか>

 南アフリカ政府は20日、突然、国際刑事裁判所(ICC)を脱退すると国連に通告した。ICCを脱退するのは、つい2日前に国内の議会で脱退を可決した中央アフリカのブルンジに次いで2番目だが、南アフリカの脱退表明は、ブルンジの脱退よりはるかに衝撃的。

南アは「優等国」のはず

 ブルンジでは昨年以降、独裁に反対するデモ隊と治安部隊の衝突で数百人の死者が出ている。そんななか3選を狙う独裁者ピエール・ヌクルンジザ大統領は、いつICCに召喚されてもおかしくない。逃げたくなるのも当然だ。調査対象となり法廷で裁かれてもおかしくない。

【参考記事】国際刑事裁判所(ICC)を脱退するアフリカの戦犯たち

 だが南アフリカは、多くの独裁者が君臨するアフリカ大陸でリベラルな民主主義を実現した模範国のはず。人権や社会正義の理想を高らかに掲げて世界的にも評価の高い南アフリカ共和国憲法がある。反アパルトヘイト(人種隔離政策)運動により27年間の獄中生活を強いられても黒人と白人の和解を説き続けた故ネルソン・マンデラ大統領もいる。戦争犯罪や大量虐殺の犠牲者に正義をもたらすべく、ICCと共に世界の先頭に立つべき国だ。それが脱退すれば、後を追う国も出るかもしれず、ICCの権威は失墜しかねない。


ICCとは:国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰するための、歴史上初の常設の国際刑事裁判機関(所在地:ハーグ(オランダ))。国際社会が協力して、こうした犯罪の不処罰を許さないことで、犯罪の発生を防止し、国際の平和と安全の維持に貢献する。6月現在、締約国は124カ国。出典:外務省

 実のところ今の南アフリカは、戦争犯罪などでICCの逮捕状が出ている独裁者をかくまう国になり下がっている。昨年、スーダン・ダルフールの大量虐殺の責任者とされるスーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領が入国した際、ICCに引き渡さず、自由に滞在させて出国させたのだ。

【参考記事】スーダン戦犯におもねる国連の機能不全

 南アフリカの品格を損なうこうした動きには前兆があった。与党のアフリカ民族会議(ANC)はかねてからICCに反対していたし、近年では同国の外交筋も、ICCはアフリカの指導者ばかりを標的にしているというアフリカ諸国の不満に同調するようになっていた。

【参考記事】PKO部隊、避難民の少女を50セントで買春

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

3月ロイター企業調査:7割が前年以上の賃上げ検討、

ビジネス

原油高「どう考えても投機的」、いかなる時も万全の対

ビジネス

3月ロイター企業調査:東証「株価意識経営」5割が「

ワールド

英、湾岸諸国向け支援強化へミサイル購入計画 イラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中