最新記事

ロシア社会

ロシアで復活するスターリン崇拝

2016年9月14日(水)16時20分
マーク・ベネッツ

 欧米人は、昨年凶弾に倒れたボリス・ネムツォフ元第1副首相のような民主派がプーチンを脅かす存在だと思っているが、実情はそうではなさそうだ。プーチンと与党「統一ロシア」に対抗できる政治勢力は議会第2党の共産党だと、ロシアの人々は言う。

共産党はガス抜き役?

 民主派の活動家は大都市では支持をつかめても、地方の有権者には彼らのメッセージは浸透しにくい。一方、連邦予算から年間2200万ドル相当の政党交付金を受けている共産党は地方でも活動を展開できる。

 例えばモスクワから約800キロ離れた沿ボルガ連邦管区マリ・エル共和国のボルシスク。貧しい共和国では2番目に大きな町だが、社会基盤の老朽化が深刻だ。道路は穴だらけ、公共施設は今にも崩れ落ちそうだ。「あれがこの町の映画館だ」と、下院選に出馬する共産党候補のアンドレイ・カルギンが黒焦げの建物を指さした。「3年前に火災が起きたんだが、資金不足で改修できないらしい」

 プーチンの長期政権下でロシアは再び大国になったと与党の支持者は言うが、ボルシスクをはじめ、マリ・エルの町のたたずまいは「大国」のイメージとは程遠い。

【参考記事】トルコとロシアの新たな蜜月

「この15年ほど、ロシア各地で工場が閉鎖され、社会基盤は劣化し、住宅購入は夢のまた夢になった」と、やはり下院選に出馬するマリ・エルの共産党候補セルゲイ・カザンコフは言う。「人々は今でもソ連時代の暮らしを覚えている。国家がアパートを提供し、誰もが職に就けた。そんないい時代の記憶は簡単には色あせない」

 共産党員に言わせると、今の惨状を招いたのはプーチン政権の腐敗だ。マリ・エルはロシアでは6番目に貧しい地域で、住民の平均月収は2万2000ルーブル(約3万5000円)。ボルシスクではさらに低い。「月収は5000ルーブルなのに、公共料金の請求が月1万ルーブルも来る」と、パートタイムでスポーツセンターの管理人をしている中年女性スベトラーナ(仮名)は言う。「下院選では共産党に入れる。当然だ。こんな生活で誰が与党候補を支持する気になるだろう」

 このところ共産党は汚職に的を絞って政権批判を展開している。公務員の汚職はロシア経済に年間300億ドルの損失をもたらしているとも言われる。共産党はプーチンを直接批判することはないが、プーチンの側近の汚職疑惑は厳しく追及している。

「大統領の側近は特権的な立場を利用して、横領やリベートで私腹を肥やしている」と、共産党モスクワ支部の責任者バレリー・ラシュキンは怒りをあらわにする。「汚職はロシアの体内で増殖するガンのようなもので、切除しなければ命取りになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪、中国軍機の照明弾投下に抗議 南シナ海哨戒中に「

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中