最新記事

難民危機

2つの難民サミット、世界にまだできること

2016年9月20日(火)18時52分
デービッド・ミリバンド(元英外相)、マデレン・オルブライト(元米国務長官)

Dimitris Michalakis-REUTERS

<今世界は大きな分岐点にある。協力して問題を解決するか、世界に背を向けるか。もし協力するなら、難民危機をチャンスに変えることもできる> (写真は、命懸けでトルコからギリシャに渡った難民)

 今、世界政治の中心に不穏なヒビが入っている。世界はかつてないほど繋がり合っているのに、グローバル化を管理するためのメカニズムや手法がまだ追いついていない。案の定、グローバル化に反感を抱く人々が苛立ちや疲れ、恐れを募らせている。

【参考記事】ドイツを分断する難民の大波

 その最たる例が難民危機だ。2015年に紛争や迫害、人権侵害のために避難を強いられた難民は6500万人で、2014年と比べて580万人増加した。

【参考記事】死者47万人、殺された医師705人......シリア内戦5年を数字で振り返る

 国連の統計によると、2014年に出身国へ戻ることができた難民は全体の1%にも満たず、避難生活は一人当たり平均17年まで延びた。国連は2015年、人道ニーズを解消するため過去最大級の200億ドルに上る資金提供を呼びかけたが、最終的には目標の45%が不足するという過去最悪の事態に陥った。

 難民や受け入れ国の間では、落胆が広がりつつある。世界最大規模の難民を受け入れるトルコやケニアをはじめ、ここ数年で主にシリアとイラクから大量の難民を受け入れてきたドイツやスウェーデンなどでも、難民の受け入れに対する懸念の声が上がっている。

【参考記事】アメリカは孤立無援のメルケルを救え

逃げるか団結するか

 1980年代に急速に進んだオゾン層の破壊や90年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などを振り返れば、人類が危機に直面したときには、2種類の反応が出ることが分かる。1つ目は、問題が手に余るとして関与や責任から逃れようとする反応。もう1つは、すべての国が一致団結しなければ有効な対策は打てないという認識で世界が一致するパターンだ。難民危機は今まさに、どちらを選ぶかの岐路に立たされている。

 国境を閉鎖して難民や移民を強制送還しようという圧力が高まれば、悪徳な密航仲介業者を利するだけだ。一部の政治家は、難民をテロリストと同じように扱うことで人々の恐怖心を煽り、難民と住民を敵対させている。この危険なサイクルを直ちに食い止めなければならない。

 今週ニューヨークで開催される2つのサミットは、難民問題を前進させるチャンスだ。1つ目は、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長が19日に国連本部で主催する「難民・移民に関する国連サミット」、もう1つは翌20日にバラク・オバマ米大統領の呼びかけで開催される「難民に関するリーダーズ・サミット」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中