最新記事

アフリカ

住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン

2016年8月30日(火)18時44分
ジョアンヌ・マリネール(国際人権団体アムネスティ・インターナショナル、シニアアドバイザー)

 ジュバで起きたような国連の失態は、今に始まったことではない。4万7500人以上が避難生活を送るマラカルの国連基地内で2月に民間人が武装集団に襲撃されたときは、PKO部隊が持ち場を放棄して40人以上が死傷した。この事件を受けて国連本部調査委員会は、「行動せず、持ち場を放棄し、事態への対応を拒んだ結果」としてPKO部隊を激しく非難。PKO部隊が「国連を頼ってきた民間人を命の危険にさらした」と結論づけた。

 マラカルの襲撃後、フランスのエルベ・ラドスース国連PKO担当事務次長は南スーダンにおけるPKO任務の失敗を認めたうえで、現場にいた一部の隊員を本国に送還すると発言。二度と同じ事態を繰り返さないために「訓練の強化」を誓ったばかりだった。だが7月に起きた一連の事件へのUNMISSの対応を見る限り、マラカルの教訓は未だ生かされていない。詳細な事実関係については議論の余地があるとはいえ、PKO部隊がまたもや民間人を守る任務を怠ったのは事実だ。

詳細

 7月8日にジュバで戦闘が勃発したとき、2万7000人以上の民間人がジェベルの国連基地内にある2箇所の保護区「第1PoC1」と「第3PoC3」に避難していた。サルバ・キール大統領派の軍隊と、同大統領の第1副大統領で反体制派の元指導者であるリヤク・マシャール派の軍隊との戦闘が激しくなると、2つの保護区もも集中砲火を浴びるようになった。戦闘が最も激しかった7月10日と11日の2日間で民間人10数人が死亡、さらに多くが負傷した。PKOに参加する中国人隊員2名も、乗っていた車両が爆破物の攻撃を受けて死亡した。

 保護区という名前とは裏腹に、PoCは外で繰り広げられる戦闘から文民を守るようにはできていない。PoCを囲むのは有刺鉄線のフェンスや土のバリケードで、銃弾や砲弾に対しては防御力をほとんど発揮しない。テントは主にビニールシートや固めた泥でできており、8月上旬に筆者がPoCを訪れたとき、人々はテントに無数に開いた銃弾の穴を見せてくれた。

 ある女性は、ベッドの下に隠れていた子どもたち4人のうち、娘が腕を撃たれたときの様子をくわしく話してくれた。

 医療関係者によると、重症を負った結果、人工肛門用の排泄袋を使用することになった者も3人いたという。

 7月10日、第1PoCと国連基地の中核施設とその他を分ける有刺鉄線フェンスの近くで、破裂弾かロケット弾が爆発した。そのすぐ横には、母親と5人の子どもが座っていた。駆けつけた子どもの父親は、目にした光景に打ちのめされたという。「子どもたちは全員、意識を失っていた。誰が死んで、誰が生きているのかわからなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ

ワールド

スウェーデン、途上5カ国援助廃止へ 年約10億ドル

ワールド

ロ「米の回答待ち」、首脳会談の予定なし ウが拒否な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中