最新記事

米雇用

米国の中間層にかすかな希望

2016年8月26日(金)16時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 中間層の苦境は、トランプ現象を生む一因となった。トランプ支持の中核は、労働者階級(ワーキング・クラス)と呼ばれ、中間層のやや下に属する人たちだ。こうした人たちには、グローバル化や技術革新によって雇用が奪われ、貧困層に没落していくことへの恐怖がある。

中間層にも勝ち組・負け組

 中程度の賃金の雇用が勢いを取り戻すことは、米国の中間層にとって朗報である。

【参考記事】【経済政策】労働者の本当の味方はクリントンかトランプか

 中程度の賃金の雇用といっても、すべてが機械などで置き換えられるとは限らない。むしろ、相対的に高い技術が求められる職種は、機械に置き換えられるというよりも、機械を使う立場になり得る。たとえば、技術革新が進む医療現場では、医師の補助的な仕事を行う職種でも、最新鋭の機器を扱う技術が必要とされる局面が増えている。X線技師や採血の専門職のように、特定の技術に特化した職種も増えてきた。雇用者に占める割合をみても、中程度の賃金の雇用者の割合が低下するなかで、こうした「新世代」に属する雇用者の割合は、上昇傾向を保ってきた(図3)。

yasuichart2.jpg

 明るい話ばかりではない。製造現場やオフィスワークなど、求められる技術水準が相対的に低く、定型化された部分が多い雇用に関しては、中長期的な成長が約束されたとは言い難い。景気が勢いを失った場合には、こうした「旧世代」の雇用が強い逆風を受けかねない。

 講演でダドリー総裁は、このまま中程度の賃金の雇用が増え続ければ、「これまで苦しんできた労働者やその家族にとって、多くの機会が生み出されることになる」と期待を示した。雇用の分極化は、長きにわたって続いてきた現象である。中間層が遅れを取り戻すには、相当の時間が必要だ。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの

ワールド

ウクライナ「賠償ローン」、EU諸国格付けに悪影響及

ワールド

ASEANとミャンマーの対話再構築、選挙後も困難=

ビジネス

海運マースク、紅海経由航路の運航再開へ 条件許され
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中