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インタビュー

資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」

2016年7月21日(木)17時50分
WORKSIGHT

消費の対象がモノからコトへ移行する

 物欲のない社会で重視されるのは見かけより実質、見えるものより見えないもの、そしてデジタル環境では得られないリアルな体験です。

 例えば、先進国、先進都市では食費、中でも人と一緒に外食する際にかけるお金への出費が増えています。特にニューヨークは顕著で、友人や知人との外食にかける時間もお金も増えています。

 ニューヨークは一人暮らしが多いし、シェアハウスを含めても単身者が多いので、誰かと一緒にご飯を食べたいという欲求が強いのだと思いますが、着ている服や乗っているクルマ、住んでいる場所といったモノではなく、相手の人間性や本質を重視するからこそ、食事の時間を共有することを重視しているともいえるでしょう。

 また、イベントやアウトドアといったリアルな体験ができる場も世界的に盛り上がりを見せています。****

 消費の対象がモノからコトへ、消費欲からコミュニケーション欲あるいは体験欲へと変化しつつある。言い換えれば、モノに代わってライフスタイルを消費する時代がやってきたということです。

物欲レスな社会は穏やかで日本人に馴染む

 長期的に見て日本も同じ変化をたどっていくでしょう。東京の外食産業も以前より活性化していると思いますが、それはコミュニケーションの場となり得るような店に限っての話です。1人で入っても淋しくない飲食店が増えています。都市部で増加するバルもそういう造りですよね。

「外食=コミュニケーションコスト」という時代の変化をつかんでいる店は成り立つでしょうけれども、単に料理や飲み物を出すだけという古臭い発想のお店は立ち行かなくなると思います。

 また、お金以外の評価の尺度が増える社会になるということでいえば、聖職者や教員のような人間性や志がより深く問われる職業の人は社会的地位が上がる、あるいは志願者が増えるのではないかと思います。収入はそれほど多くなくてもやりがいが感じられるし、地域のコミュニティでの評価が高ければ慕ってくれる人や世話を焼いてくれる人が出てきて、現状よりも幸福度は上がるでしょう。

 ソーシャルメディアを通じて中身が丸裸になる社会では、コミュニティ内での信用も可視化されます。そこでの信用が高い、もしくは友達が多い人にはすごく生きやすい社会になるはず。そしてそれは日本人に馴染む生き方ではないでしょうか。

 ガツガツした物欲がなく、人々の振る舞いや言動が謙虚になり、調和と共有を重んじる穏やかな世界。それは大量消費社会より前に古くから日本にあった、どこか懐かしく親しみのある世界ではないかと思います。

WEB限定コンテンツ
(2016.1.7 中央区のグーテンベルクオーケストラ オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

※インタビュー後編:歴史感を伴った根拠なき自信を持て

wsSugatsuke_site2.jpg株式会社グーテンベルクオーケストラは菅付氏が率いるクリエイティヴ・カンパニー。さまざまな分野で編集、ディレクション、また企業のコンサルティングなどを手掛けている。
http://gutenbergorchestra.com

* 総務省の家計調査報告(2015年平均)では、二人以上の世帯の消費支出で「被服及び履物」は前年比で実質7.2%の減少となっている。

** 上記と同じく総務省の家計調査報告では、「家具・家事用品」の支出は実質3.1%の減少となっている。

*** 「国民経済計算確報」(平成24年度)

**** ノースフェースやパタゴニアなど、世界のアウトドアブランドは成長していると菅付氏は指摘する。また、日本でもアウトドア用品市場は4年連続で拡大を続けている(矢野経済研究所「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」より)。

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『中身化する社会』(星海社新書/講談社)ではソーシャルメディアの普及によって商品やサービス、人間までも「中身」が丸裸になる社会の到来を示し、『物欲なき世界』(平凡社)では物欲が低下する先進国のトレンドから資本主義の先にある世界を描いている。

wsSugatsuke_portrait.jpg菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
1964年生宮崎県生まれ。株式会社グーテンベルクオーケストラ 代表取締役、編集者。角川書店『月刊カドカワ』編集部、ロッキグンオン『カット』編集部、UPU『エスクァイア日本版』編集部を経て、『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務めた後、有限会社菅付事務所を設立。出版からウェブ、広告、展覧会までを編集する。書籍では朝日出版社「アイデアインク」シリーズ(共編)、電通「電通デザイントーク」シリーズ(発売:朝日新聞出版)、平凡社のアートブック「ヴァガボンズ・スタンダート」を編集。著書に『東京の編集』『はじめての編集』『中身化する社会』など。2014年1月にアートブック出版社「ユナイテッドヴァガボンズ」を設立。2015年に株式会社グーテンベルクオーケストラに社名変更。下北沢B&Bにて「編集スパルタ塾」を開講中。多摩美術大学で「コミュニケーション・デザイン論」の教鞭をとる。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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