最新記事

インタビュー

資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」

2016年7月21日(木)17時50分
WORKSIGHT

 こうした現象からは、単にモノへの欲望がなくなったというだけでなく、人々の幸福感も変わってきていることが感じられます。今まで何のためにモノを買うかといえば、それは幸せであることを自他ともに認識するためでした。大きな家に住んでいる、高級車に乗っている、ブランドものの服を着ているといったことが幸せの物的証拠だったし、その幸せを経済の最大のモチベーションにして僕らは生きていたわけです。

 しかし、ソーシャルメディアの普及で個々の人格や生活の中身が可視化され、浪費的な消費が意味をなさなくなった。それはつまり資本主義の基本原理が揺らぎ、問い直されているということです。

ライフスタイルを重視する全米No.1の人気の街・ポートランド

 いま全米の住みたい街ナンバーワンはポートランドです。保護された大自然が周囲にある一方で洗練された都市文化も享受できる、非常に快適で暮らしやすい街ですが、ここに全米、さらに世界中から人が流入していることは物欲レス現象の一端を示していると思います。

 市内にはサードウェイブ・コーヒーの店やビールの蒸留所がひしめき、近郊に多くのワイナリーがあってビオワイン・ブームでも主導的役割を果たすなど、オーガニックやエコロジーでは先を行く街です。また、最近のメイカームーブメントのメッカの1つでもあります。自分たちが本当に欲しいもの、身の丈に合ったものに囲まれて暮らしたい。それこそが幸せだというライフスタイルが浸透しているんですね。

 経済規模はそう大きくありません。人口は60万人で、大企業もナイキの本社がある程度。でも全米を始め世界中から人が移住してくる。ということは、彼らは別にお金持ちになりたいわけじゃないんです。お金持ちになりたいならニューヨークやロサンゼルスに行くはずですから。ポートランドに来る人はお金やモノとは違う価値を求めているわけです。

【参考記事】ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める

 それはすなわち、これまで大量生産、大量消費を続けてきた人々がモノよりもライフスタイルを上位に置き始めたということでしょう。ウォールストリートで大金を稼ぐとか、ロサンゼルスでエンタテインメントビジネスで名声を得ようといったこととは違うことを上位に置き出したということです。

資本主義の閾値を超えつつあるニューヨーク

 行き過ぎた資本主義の反転ともいえるこの動きはニューヨークでも見られます。ニューヨークは、金融だけでなくメディアやアートも含めたあらゆる分野で、とんでもない額のお金が動いている。例えば広告業界で活躍するカメラマンのトップ20人くらいだと、撮影料が1億円を超えることもざらです。彼らは年収10~20億円を稼ぐけれども、ニューヨークのカメラマンの平均年収は370万円くらいなので、極端な二極化が進んでいる。

 二極化はニューヨークの産業全体に起きていることで、金融でも広告業界でも全ての領域でトップに異常なまでに仕事が集中してギャラがすごく上がって、あとは逆に下がっている。でもこのまま続くわけがない、どこかで激しくはじけるはずだとみんなが思っている。リーマンショックで一度はじけたけれども、まだニューヨークは危険水域にあると思いますね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中