最新記事

英EU離脱

イギリスEU離脱で復活する「量的緩和の呪縛」

2016年7月5日(火)10時48分

 FRBは債券購入によりバランスシートを3兆6000億ドル拡大。その後も償還債の再投資を続けてバランスシート規模を維持しており、再投資は2016年に約2160億ドル増え、さらに3年後には9000億ドル増える見通しだ。

 少なくとも早期の追加利上げを予測する投資家はほとんどいなくなった。世界の基準となる米10年国債の利回りは1日、過去最低水準の1.38%だった。

「量的失敗」?

英国や日本、スイスのほか、ユーロ圏諸国でも10年債の利回りは過去最低レベルで、マイナス圏が多い。景気回復の持続性への懸念や低水準にとどまる物価上昇率、中銀の政策の限界説を背景に、英国民投票前から債券の利回りは下がっていたが、投票後にはこの傾向が特に、英国や欧州を中心に顕著になった。

 クレディ・スイスのエコノミストは来年の英国の成長率は従来予想の2.3%から1%落ち込むと予想。QEの額も4500億ポンドに拡大するとしている。

 米ダートマス大のデビッド・ブランチフラワー教授(経済学)は、英中銀の利下げ実施はほぼ確実で、その後QE拡大が続く可能性があると指摘する。

 同教授は英中銀の元金融政策委員会(MPC)メンバー。「2008年は深刻な経済危機だった。今回は深刻な政治危機が経済危機をもたらせた」

物価上昇率の目標を2%程度に引き上げたいECBも、来年3月までを予定している1兆7400億ユーロ規模のQEを拡大する見通しだ。ただ、ユーロ圏では数兆ユーロ分の債券の利回りが、ECBの購入基準の下限であるマイナス0.40%を下回り、買える債券が限られてきている。

 しかも、皆が皆、追加緩和で事を解決できると考えているわけではない。現に、何兆ドルもの資金供給にもかかわらず、世界中で経済成長は鈍化し、物価上昇率の見通しも上がらない。

 米バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリストはQEを「量的失敗」と皮肉る。大手監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のシニア・エコノミック・アドバイザーで英中銀の元MPCメンバーのアンドリュー・センテンス氏は、これから得られる統計を基にEU離脱による影響がはっきりとするまではQEを待つべきだと考える。

 センテンス氏は「追加緩和や小規模な利下げをしても効果は限定的だ。政策決定に関与していたら、金利の据え置き、追加緩和なしを主張する」と話している。

 (Jamie McGeever記者)

[ロンドン 1日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 7
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    第三次大戦はもう始まっている...「死の4人組」と「…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中