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孫正義社長もこだわる「IoT(モノのインターネット)」で何ができる?

2016年7月25日(月)19時09分
ティモシー・マッカラム(豪サザンクイーンズランド大学上級アナリスト)

Maxiphoto-iStock.

<IoTではたとえば、販売した製品(例えば、冷蔵庫)から社長室に直接、使用状況などのデータをリアルタイムで送らせるような仕様が可能になる。進化の先には、未来予測もできる>

 モノのインターネット(IoT)の普及に伴って、現実界におけるアクションとデジタル界のデータ処理が融合しつつある。

 IoTとは、さまざまなハードウエア同士がデジタルに結びついたネットワークのことで、物理的な特性をデジタルデータへと変換することができる。そのデータは世界中のあらゆる場所に送信可能で、光速処理される。

 今後5年間で、200億個ものデバイスがIoTに接続され、ビジネスモデルとマーケティング戦略に革命的な変化を起こし、世界中のビジネスに衝撃をもたらすと見られている。

 リアルタイム・マーケティングはすでに成長市場で、企業側は顧客ひとりひとりに合わせた顧客体験を提供しようとしている。IoTは、ビジネスが持つありとあらゆる側面について、経営者にリアルタイムで情報を届けてくれるような製品のデザインを可能にする。製品そのものから顧客のフィードバックが返ってくるため、マーケティング戦略が成功したかどうかを直接知ることができ、製品開発やデザインに役立つ貴重な洞察を得ることができる。

モノのアレイ

 各国政府はしばらく前から、公共の価値のためにデータを一般に公開してきた。データの大半はきわめて有用なものだが、概して「時代遅れ」でもある。データからわかるのは主として過去のことだ。そして、データの更新が行われるのはたいてい月に1度か、半年あるいは1年に1度程度。そこでリアルタイム情報が提供されるようになれば、どれほど革命的か想像がつくだろう。これについて、シカゴのスマートシティ開発計画「モノのアレイ(Array of Things=AoT、配列の意味)」の研究者は次のような例を挙げている。


例えば、道端に立つ電灯が、「この先の歩道が凍結しているから気をつけて」と注意してくれる。深夜に1人で歩いている時に、最寄りの地下鉄駅まで一番人通りが多い道を行けるよう、アプリがルートを教えてくれるかもしれない。

 AoTは、アメリカ国立科学財団(NSF)から先ごろ助成金を受けた。今後は、シカゴの街通りから収集されるデータをリアルタイムで提供していく予定だ。光や音、空気の質などさまざまなデータが、設置されたセンサーを使って街区ごとに収集され、無料で一般に提供される。

 シカゴ市内にはまず、ネットワークに接続されたノード42個が設置される予定で、場所も公表されている。設置が始まるのは2016年夏だ。2018年までには、合計500個のノードがシカゴに設置されることになっている。

 最近では、必要なライブデータは巷にあふれている。ビットコインの全取引に関する詳細情報を提供するブロックチェーンもそのひとつだ。また、ローカルコミュニティのプラットフォーム「Meetup」には「RSVPティッカー」があり、同プラットフォーム利用者の誰がいつ飲みに行き、日本語を勉強し、禅の瞑想会に参加するのかが手に取るようにわかる。

 各国政府にとっての課題は、データを整理することと、その処理に関して共通の基準を設けることだ。アメリカ大統領科学技術諮問委員会は現在、この点について検討を行っている。

未来を予測する

 サーバーログとウェブページの文字コンテンツについては、以前からマイニングされ、ウェブのカスタマイズ化向上を促進し、ユーザーが今後求めるコンテンツを予測するのに役立ってきた。つまり、「人々が検索したもの」から、「人々が将来とる行動」を予測できるわけだ。

 いっぽう、IoTで結びついたハードウエアは、整理されて一貫性のあるリアルタイムのデータフィードを生み出すよう設定できる。そしてこうしたデータは、事象の単なる相互関係や同時発生という範囲にとどまらず、「未来を予測する」ために利用できるものだ。

The Conversation

Timothy McCallum, Senior Analyst, University of Southern Queensland

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

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