最新記事

北朝鮮

なぜ北朝鮮は意地になってミサイル発射を繰り返すのか

2016年6月23日(木)16時11分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

KCNA/File Photo via REUTERS

<金正恩が3月に核実験とミサイル発射実験の実施を指示して以来、ミサイルは失敗が続いていたが、22日に「ようやく」6発目にして成功。しかし、通常これほど短期間に実験を繰り返すことはありえず、見方によっては「早い段階」で成果が出たとも言える。ではなぜ、これほど性急に発射実験を繰り返してきたのか?>

 北朝鮮が22日、相次いで発射した中距離弾道ミサイル・ムスダンのうち、1発目は150キロの飛行距離で空中爆発したものの、2発目は400キロ余りを飛行。韓国軍当局は2発目について、「技術的な進展があった」と見ている。本来なら500キロ以上の飛行が成功の目安となるが、北朝鮮は日本を刺激するのを避けるため発射角度を調整、地上1000キロの超高空まで打ち上げることで、飛距離を調整した可能性があるという。

 北朝鮮の金正恩党委員長は3月、早い時期に核弾頭の爆発実験と核弾頭の装着が可能な弾道ミサイル発射実験を実施するよう指示。これを受け、4月15日に初めてムスダンの発射実験が行われたが、空中爆発して失敗した。

「血の粛清」の重圧

 続いて同月28日に2発、5月31日に1発の発射実験が行われたが、いずれも失敗。5月の実験では移動式発射台の上で爆発したとも言われる。そして、今回の6発目でようやく、ある程度の成果が表れた形だ。

 いま「ようやく」と述べたが、見方によっては、かなり早い段階で成果を出したと言えなくもなかろう。専門家によれば、空中爆発などの根本的な欠陥が認められた場合、数カ月から1年を経て再実験を行うのが「常識」だそうだ。

 だが、それは費用対効果を考え、国民の血税や投資家のおカネを大事に使わねばならない民主主義国家における「常識」である。正恩氏が恐怖政治で支配する独裁体制においては、彼が「急げ」と言ったら開発部門は何が何でも急がねばならない。従わなければ「血の粛清」が待っている。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」...残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

米韓の「斬首作戦」

 ただそれにしても、正恩氏の急ぎ方は尋常でないようにも思われる。彼は、まだ30代前半と若い。健康管理さえきちんと出来れば、年を重ねながら経験や武器を蓄積できる。時間は彼の味方のはずだ。

 なのに何故、こうも性急なのか。

 その理由はやはり、恐怖心にあるのではないか。北朝鮮は今月に入り4回も、外務省報道官談話や官営メディアの報道などで、「米軍が『精密空襲作戦』を準備している」と非難している。米国防総省などと深い関係にあり、「影のCIA」とも呼ばれる民間シンクタンク、ストラトフォーが対北攻撃シナリオを発表したことに敏感になっているのだ。

(参考記事:米軍の「先制攻撃」を予言!? 金正恩氏が恐れる「影のCIA」報告書

 これと似たようなことは、以前にもあった。米韓が正恩氏に対する「斬首作戦」を採用する動きを見せるや、半狂乱になって非難キャンペーンを繰り広げたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

7&IHD、複数のM&A・連携含めた取り組み進めて

ワールド

APECサミットが開幕、韓国大統領「共通の繁栄へ協

ビジネス

中国製造業PMI、10月は49.0に低下 7カ月連

ビジネス

デンソー、通期利益予想を下方修正 品質引き当て織り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中