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紫の異端児プリンス、その突然過ぎる旅立ち

2016年5月11日(水)16時00分
ザック・ションフェルド(本誌記者)

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伝説の『パープル・レイン』の時代(右上、右下、左上)から昨年の『ヒットアンドラン』ツアー(左下)まで、プリンスもデビッド・ボウイ同様、最後まで自分らしい音楽に取り組み、そして唐突に去って行った(右上から時計回りにRichard E. Aaron-Redferns/GETTY IMAGES, Michael Putland-Hulton Archive/GETTY IMAGES, Chelsea Lauren/GETTY IMAGES FOR NPG RECORDS 2015, Michael Ochs Archives/GETTY IMAGES)

マイケルとのライバル関係

 プリンスは下品に見えることをいとわなかった。大胆な官能性と異次元のファンクを武器に、ポップスターの領域をぎりぎりまで押し広げた。

 3カ月前に亡くなったデビッド・ボウイのように、プリンスはジェンダー、ジャンル、人種、想像力の壁を軽々と越えた。96年のアルバム『イマンシペイション』の収録曲からも、さまざまなアーティストに影響を与えたことが見て取れる。

 プリンスなしにアウトキャストやディアンジェロ、ミゲルは存在しなかっただろう。マイケル・ジャクソンとのライバル関係は、2人をアーティストとしてのさらなる高みに導いた。

 プリンスが別のバンドに提供した「ナッシング・コンペアーズ・トゥー・ユー」は、たまたまカバーしたシンニード・オコナーを有名にした。また彼が貫いた伝統破りの姿勢は、最近アルバム作りの型にはまった戦略に背を向けているカニエ・ウェストに受け継がれた。

 プリンスはポップス界のルールも書き換えた。まずは80年代前半に、黒人といえばもっぱらR&B、といった境界を越え、ポップス界の主流へ躍り出た。その後も、彼は幾度となく音楽界のルールを打ち破った。

 神聖と不敬を合体させた歴史的アルバム『パープル・レイン』はその1枚で、20世紀後半における地球のポピュラー音楽を学びたい異星人の教科書にもできそうな作品だ。また「ポップスのスーパースター」と「ギターの天才」を両立できることも証明した。シングルカットされた「ビートに抱かれて」は、ベースラインを省いた極限のギター・サウンドでチャート1位に駆け上った。

 歌詞も強い。「シスター」では近親相姦を、「1999」では核爆発による人類の滅亡を、「イフ・アイ・ウォズ・ユア・ガールフレンド」では性別を超越したファンタジーを歌った。そんな時期の金字塔とも言えるのが、2枚組のLP『サイン・オブ・ザ・タイムズ』だ。

 その後、プリンスは自らの内に深く沈み込んでいき、「パープル・レイン」や「キス」を愛した一般的なリスナーはついていけなくなった。

 転換点は80年代後半、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』に続くはずの『ブラック・アルバム』を直前に破棄したことだ。ドラッグのせいか霊的なひらめきのせいかはともかく、彼はこのアルバムを許せなかった。

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