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北朝鮮、海外に「インチキ病院」の怪ビジネス

外貨稼ぎのために医師100人以上がタンザニアに派遣されていたが、不正医療により政府から摘発され、友好国でも北朝鮮の悪評が広がりつつある

2016年4月26日(火)11時39分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

元帥様のためだが 北朝鮮は162カ国と外交関係を結び、各国へ派遣された外交官やビジネスマン、医師らが国のために外貨稼ぎに励んでいるが、各地でほころびが出始めているようだ(朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表した写真、2014年撮影) KCNA-REUTERS

 アフリカのタンザニアでは、北朝鮮の医師計100人以上が、12の病院で勤務している。友好国同士であり、医師らは外貨稼ぎのために派遣されたものと思われるが、どうやら行状に行き過ぎがあったようだ。

 米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)などによれば、タンザニア保健省が最近、北朝鮮の医師らが「インチキ医療」を行っていた2つのクリニックを抜き打ちで検査し、即時閉鎖命令を出した。

 問題のインチキ医療は、中国製や北朝鮮製の「量子共鳴磁場分析器」(Quantum Resonance Magnetic Analyzer、QRMA)なる検査機器を使って行われる。医学的根拠は定かではないが、日本でもPRA療法と称して、治療に取り入れている代替医療機関は存在する。

 北朝鮮の医師は、現地のハーバリスト(伝統医学の医師)と共謀して患者を集め、採血すらすることなく、たった1、2分の検査で診断。あたかも重い病気であるかのごとく説明し、高価な医薬品を高値で売りつける行為を繰り返していたという。

 北朝鮮の医師は、かつてはモラルの高さで知られていた。医療機器も医薬品も慢性的に不足する中、彼らの技量と職業的使命感だけが庶民らの命の支えだった。しかしそれも、あまりの境遇の苦しさの中で変質してしまっているのだろうか。手術をするのに麻酔薬すら使えないほどの苛烈な状況の中では、彼らだけに「まともであれ」と求めるのも無理なのかもしれない。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術...北朝鮮の医療施設

 また、海外にまで出かけて人々の命と健康を玩具にするようなことをしていては、たとえ金正恩体制が倒れて民主化する日が来ようとも、北朝鮮の将来に禍根を残す。実際この件に限らず、アフリカでも北朝鮮の悪評は増してきている。

 しかし北朝鮮の医師たちとて、おそらくは無理な外貨獲得のノルマを課され、やむなく違法な商売に手を染めていると思われる。リビアに派遣された北朝鮮の医師の中には、武装勢力「イスラム国」に拉致され、殺されてしまった者もいると聞く。

 ならばいっそ、彼らに韓国などへの亡命を促せないものだろうか。美人ウェイトレスの集団脱北と同様、北朝鮮の外貨獲得の余地を狭めることにもつながり、有効な制裁手段にもなり得ると思うのだが。

(参考記事:北朝鮮レストラン「美貌のウェイトレス」が暴く金正恩体制の脆さ(2)

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
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