最新記事

ビッグデータ

「パナマ文書」解析の技術的側面

2.6テラバイトのリークデータを調査報道機関はどうやって分析したのか?

2016年4月12日(火)18時25分
大野圭一朗

プーチン大統領の資産隠しに関わっていると思われる会社と関係者のネットワーク (Generated with Linkurious)

 世界中で話題になっているパナマ文書。各国で政権を揺るがすような事態にもなっていますが、純粋にデータとしてみた場合、これは計算機やデータ解析に関わる人々にも面白いものだと思います。データの中身や背景などについてはさんざん報道されていますのでここでは触れません。一方、現場でどのような作業が行われているのかはあまり報道されていません。現実的な問題として、人力ではどうしようもない量のリークデータを手に入れた場合、調査報道機関はどんなことを行っているのでしょうか? 私も以前から疑問に思っていたのですが、先日あるデータベース企業と、データ分析アプリケーションを作成する会社のブログにて、その実際の一端を窺うことができる投稿がありました:

・Panama Papers: How Linkurious enables ICIJ to investigate the massive Mossack Fonseca leaks
・The Panama Papers: Why It Couldn't Have Happened Ten Years Ago
・Inside the Panama Papers: How Cloud Analytics Made It All Possible

 これらは普段からグラフ(後述)を扱う仕事をしている自分にとっても興味深いものでしたので、ここで紹介します。こう言った現代の調査報道のテクニカルな部分は日本のマスコミで報道されることはほとんどないので、読んでいて純粋に面白かったです。ここでは世界の調査報道機関はどんなテクノロジーを使い何をやっているのかを、技術に明るくない人にもできるだけわかりやすいように書いてみようと思います。

データの形式

 まず今回のデータの計算機的な性質です。公開されている情報によれば、それは以下の様なものです

panamapapers02.gif

出典: Süddeutsche Zeitung "About the Panama Papers"



・容量: 2.6TB。大きさとしては一万円程度のハードディスクにすべて納まります。
・ファイル数: およそ1,150万
・データ形式: 電子メール、RDBなどのデータベース、PDF文書、画像(おそらく多くは書類のスキャン)、テキストファイル。ファイル数の分布は上のチャートを参照

 2.6TBというデータは、現在の計算機にとっては決して大きなものではありません。貴方がテレビ録画用のHDレコーダをお持ちでしたら、おそらくこれより大きなデータをそこに格納できるでしょう。しかし、その大きさのデータを人間が解析しようと思った時、それはあまりにも膨大な量で、とても人力でどうにかなるものではありません。本質的にこのデータセットに対しては、プリントアウトしてひとつひとつ見るというようなアナクロな手法は通用しません。パナマ文書は何らかの検索や可視化の技術が利用できなければ、人間には歯が立たないものなのです

しかし幸運なことに、今回のデータは画像ファイルを除けば(これも最近「インテリジェントな」解析技術が飛躍的に向上していますがここでは触れません)、ほぼすべてが機械で比較的低コストで処理できる形式のファイルです。ここで計算機の出番になります。ここから先は、先の記事から読み取れる技術的な背景について解説していきたいと思います。

データの前処理

 このような膨大な数のファイルを解析する場合、必ずデータの前処理が必要になります。今回のデータセットは大きく二つのタイプに分けることができます:

1. RDB形式(いわゆるデータベース)の機械で容易にアクセスできるファイル
2. 人が読むことを前提にした文書ファイル。テキストと画像、PDFを含む

 今回解析に当たったICIJのデータ解析班は、まず比較的ハードルの低いひとつ目のデータに取り組みました。要するに、データベースを容易に検索できる形に再構築することです。これは専門家の手により数ヶ月で終えることができたそうです。しかし二つ目のデータはそうはいきません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、アイオワ州訪問 建国250周年式典開始

ビジネス

米ステーブルコイン、世界決済システムを不安定化させ

ビジネス

オリックス、米ヒルコトレーディングを子会社化 約1

ビジネス

米テスラ、6月ドイツ販売台数は6カ月連続減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中