最新記事

タックスヘイブン

パナマ文書、国務院第一副総理・張高麗の巻

2016年4月11日(月)17時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 習近平はその頃まだ無名で、福建省寧徳市の副書記などをしており、どこにでもいる普通の地方幹部に過ぎなかった。

 97年から深セン市の党委書記となった張高麗は、深セン迎賓館に習仲勲夫妻が住んでいることを知ると、早速自宅を訪問し、「なにかご不便なことがあったら、なんでも申し付けていただきたい」と挨拶に行っている。春節や中秋節など、季節の折々にも必ず習仲勲夫妻のもとを訪れ、何くれとなく世話をした。

 習近平が出世するかどうか分からない時期に、すでに政界を引退している習仲勲に敬意を表して足しげく訪れた張高麗を習近平は非常に信頼し感謝したため、張高麗の現在の地位があるという側面も否めない。

 なんとも「美談」に見える。

 ところが――、張高麗には別の顔があった。

張高麗と娘婿・李聖溌との「金権関係」

 張高麗は妻との間に子供に恵まれず、父方のいとこが70年代にフィリピンで他界したので、その娘・張暁燕(ちょう・ぎょうえん)を引き取って養女として育てた。1989年になってようやく男の子が生まれはしたが、張高麗は養女の張暁燕を可愛がっている。やがて彼女が年頃になった1997年、張高麗は張暁燕を香港商人で同郷(隣り村)の李賢義の息子・李聖溌(り・せいはつ)と結婚させた。

 1952年生まれの李賢義は、貧乏から逃れるために香港に渡り、ゼロからたたき上げてそれなりの成功を収めていた。1989年には、深センに「信義集団有限公司」を設立している。自動車の窓ガラスを中心として成長し、香港の大陸への返還が実現しそうだという「政治の風」を読み取り、深センに渡る。香港商人として大陸に進出したのだ。

 そして香港の大陸返還が実現した1997年、張高麗は深セン市の書記に赴任してきた。

 このときには、李賢義の工場は37万平方メートルに広さ、累計資金10億元、2000人の社員を抱える大企業に発展していた。車のガラスだけでなく、ビルのガラス窓のガラスや防弾ガラスなども生産し、「ガラス大王」と呼ばれるようになっていた。

 深セン市の書記と深セン市の大企業のオーナーが接触を持つのに時間はかからなかった。同郷のよしみが加わり、結婚は一瞬で決まった。

 金と権力。まさに金権関係による婚姻だ。中国では「官商婚姻」と言っている。

 香港の中国返還に伴う香港商人への優遇策という大きな流れの商機を、二人は見逃さなかった。

 ここから江沢民を巻き込んだ闇の世界が広がり始める。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ

ビジネス

日経平均は反発、円安を好感 半導体株高も支え

ビジネス

村田製作所、マイクロ一次電池事業をマクセルに80億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中