最新記事

タックスヘイブン

パナマ文書、国務院第一副総理・張高麗の巻

2016年4月11日(月)17時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

華人としての世界最大の資産家・李嘉誠を仲介として

 小さいころに福建や広東から香港へと逃れた華人華僑は多く、中でも有名なのが李嘉誠(り・かしん)だ。彼は1928年に広東省潮州市に生まれたが、1940年、香港へと逃れた。香港フラワーと呼ばれた造花で大成功し、その後、香港最大の企業グループ長江実業を創設している。華人としては世界最大の資産家だったが、最近ではアリババの馬雲(ジャック・マー)や大連万達(ワンダー)集団の王健林などが頭角を現し、やや陰りが見えてきた。しかし当時は絶大な財力を誇っていた。

 香港で成功した大陸生まれの商人の一人として、張高麗の娘婿の父親・李賢義は、李嘉誠とも仲がいい。そこで李嘉誠を張高麗に引き合わせ、張高麗はすぐさま李嘉誠を江沢民に引き合わせた。

 江沢民が喜んだこと、喜んだこと!

 李嘉誠は、江沢民の息子・江綿恒の「中国網絡(ネットワーク)通信集団公司」に500億元を投資した。すると江沢民はそのお礼に、北京の王府井(ワンフージン)周辺にある一等地を李嘉誠に提供し、「東方広場」なる巨大な商店の地を提供している。お蔭で昔の情緒豊かな「汚い」王府井は姿を消してしまった。その陰には張高麗がいたのである。

パナマ文書に名前が載るまで

 江沢民と李嘉誠を結びつけたキューピットが娘婿・李聖溌の父親・李賢義だとすれば、パナマ文書に名前が載るまでに李聖溌を成長させたのは張高麗であるということができよう。

 張高麗は江沢民の覚えめでたく、2001年に山東省の副書記に、2002年11月には書記に昇進。2007年に天津市の書記に抜擢されている。

 それに伴って、娘婿の李聖溌は香港に17社もの上場企業を持つに至り、不動産業に手を付け始めたので、父子が得た莫大な利益は尋常ではなく、フォーブスの中国富豪ランキングに名前が載ったほどである。

 李聖溌は、張高麗が李嘉誠と江沢民を結びつけたことから、李嘉誠から投資を受けるようになり、2001年に「匯科(かいか)系統」というIT関係の会社を共同で深センに設立した(李嘉誠側が70%の株)。

 しかし2008年になると、「匯科系統」の株の70%を「信義科技集団」の董事長になっていた李聖溌が持つようになり、同時に李聖溌は「匯科系統」の董事長にもなった。さらに「民潤」というスーパーマーケットのチェーン店を運営するようになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フィリピン、中国海警局が医療搬送妨害と非難 5月に

ビジネス

中国の対ロシア輸出、5月にプラス転換 輸入は昨7月

ワールド

トランプ氏支持、リベラル地域でも広がり 献金120

ビジネス

中国輸出、5月は前年比+7.6%に加速 内需弱く輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 8

    正義感の源は「はらわた」にあり!?... 腸内細菌が…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    世界大学ランキング、日本勢は「東大・京大」含む63…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中