最新記事

対テロ対策

アメリカの空港警備改革、ベルギーテロ後もなぜ加速しないのか

2016年4月3日(日)14時20分

 警備体制の錯綜が見られるのはJFK空港だけではなく、米国内の他の主要空港も同様である。

 航空産業専門のコンサルタント、ロバート・マン氏は、「ますますひどくなっている。空港の警備に関与する法執行機関は、今のほうが昔に比べてずっと多い」と言う。同氏は、空港の警備体制の錯綜を「バレエの複雑な振り付けのようだ」と表現する。

 航空会社も空港運営会社も混乱を好まないし、コストを綿密に計算するが、他方、警備当局は完璧に統制したがる傾向がある、とマン氏は言う。「こうした当事者の間で対立が生じるのは自然なことで、何か改革を試みるたびに、それを思い知らされる」

ほんのわずかな調整でも容易ではない。

 「オヘア空港の第5ターミナルの再開発の前には、運輸保安局を含めて、あらゆる関係者と交渉しなければならなかった。再設計の中心的な要素が保安検査場の再編だったからだ」と話すのは、現在マンチェスター空港グループの米国部門のCEOを務めるローズマリー・アンドリーノ氏。彼女がシカゴ航空局の理事だった頃の体験だ。

 警備当局間の境界線は、地域によって異なっている。オヘア空港とミッドウェイ空港では、シカゴ航空局が警察部門を持っており、職員は折り畳み式の警棒を携行しているが、銃器は持っていない。シカゴの各空港内で銃器携行するのはシカゴ市警である。ワシントン大都市圏のレーガン空港、ダレス空港は、空港警察が銃器を携行している。

 たとえJFK空港で改革が行われることになっても、官僚主義的な大混乱が持ち上がり、他の空港にとってのお手本にはならないかもしれない。

 「1つの空港を見たとしたら、それは1つしか見ていないということだ」と、ポートランド国際空港の公衆安全・保安担当ディレクターを務めるマーク・クロスビー氏は語る。つまり、すべての空港に通用する万能のソリューションはない、という意味である。

 ニューヨークの空港を運営する港湾委員会の広報担当者は、セキュリティ絡みの事態への対応では「協調が非常に大切だ」と述べ、関連する警備当局とのあいだで定期的な訓練を行っていると語る。複数当局の混在が、JFK空港の改革を阻害しているのではないかという問いには、コメントを得られなかった。

手本はイスラエルか

 ブリュッセルの空港自爆犯は、警備体制が空港に対するよりも、航空機への攻撃防止に重点を置いているという点につけ込んでいた。西欧諸国や米国の空港ターミナルは、容易に近づけるパブリックスペースである。だが、攻撃がもっと頻繁に見られる諸国では事情が異なる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

金正恩氏が列車で北京へ出発、3日に式典出席 韓国メ

ワールド

欧州委員長搭乗機でGPS使えず、ロシアの電波妨害か

ワールド

ガザ市で一段と戦車進める、イスラエル軍 空爆や砲撃

ワールド

ウクライナ元国会議長殺害、ロシアが関与と警察長官 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあるがなくさないでほしい
  • 3
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世界的ヒット その背景にあるものは?
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中