アメリカの空港警備改革、ベルギーテロ後もなぜ加速しないのか
警備体制の錯綜が見られるのはJFK空港だけではなく、米国内の他の主要空港も同様である。
航空産業専門のコンサルタント、ロバート・マン氏は、「ますますひどくなっている。空港の警備に関与する法執行機関は、今のほうが昔に比べてずっと多い」と言う。同氏は、空港の警備体制の錯綜を「バレエの複雑な振り付けのようだ」と表現する。
航空会社も空港運営会社も混乱を好まないし、コストを綿密に計算するが、他方、警備当局は完璧に統制したがる傾向がある、とマン氏は言う。「こうした当事者の間で対立が生じるのは自然なことで、何か改革を試みるたびに、それを思い知らされる」
ほんのわずかな調整でも容易ではない。
「オヘア空港の第5ターミナルの再開発の前には、運輸保安局を含めて、あらゆる関係者と交渉しなければならなかった。再設計の中心的な要素が保安検査場の再編だったからだ」と話すのは、現在マンチェスター空港グループの米国部門のCEOを務めるローズマリー・アンドリーノ氏。彼女がシカゴ航空局の理事だった頃の体験だ。
警備当局間の境界線は、地域によって異なっている。オヘア空港とミッドウェイ空港では、シカゴ航空局が警察部門を持っており、職員は折り畳み式の警棒を携行しているが、銃器は持っていない。シカゴの各空港内で銃器携行するのはシカゴ市警である。ワシントン大都市圏のレーガン空港、ダレス空港は、空港警察が銃器を携行している。
たとえJFK空港で改革が行われることになっても、官僚主義的な大混乱が持ち上がり、他の空港にとってのお手本にはならないかもしれない。
「1つの空港を見たとしたら、それは1つしか見ていないということだ」と、ポートランド国際空港の公衆安全・保安担当ディレクターを務めるマーク・クロスビー氏は語る。つまり、すべての空港に通用する万能のソリューションはない、という意味である。
ニューヨークの空港を運営する港湾委員会の広報担当者は、セキュリティ絡みの事態への対応では「協調が非常に大切だ」と述べ、関連する警備当局とのあいだで定期的な訓練を行っていると語る。複数当局の混在が、JFK空港の改革を阻害しているのではないかという問いには、コメントを得られなかった。
手本はイスラエルか
ブリュッセルの空港自爆犯は、警備体制が空港に対するよりも、航空機への攻撃防止に重点を置いているという点につけ込んでいた。西欧諸国や米国の空港ターミナルは、容易に近づけるパブリックスペースである。だが、攻撃がもっと頻繁に見られる諸国では事情が異なる。