最新記事

核開発

少数民族の土地が「死の砂漠」に──中国を抑止できない核サミット

核実験場と化したモンゴル人やチベット人の故郷。半世紀以上の蛮行に世界は声を上げてこなかった

2016年3月31日(木)19時43分
楊海英(本誌コラムニスト)

60年代に核実験が行われた新疆ウイグル自治区の荒野 dreamerchina-iStock.

 アメリカの首都ワシントンで3月31日から2日間、核安全保障サミットが開かれ、日本の安倍晋三首相や中国の習近平(シー・チンピン)国家主席など50数カ国の首脳が出席する。

 主な議題は北朝鮮の核開発や日本と中国などの核燃料サイクルになるだろう。それに加えて、中国が核や宇宙開発の名の下に、少数民族を存続の危機にさらしてきたこともぜひ論じてほしい。

 私の手元に1964年10月17日付の中国共産党機関紙「人民日報」の号外がある。「ロプノールにおいて、わが国の核実験が成功」と全文が赤いインクで印刷され、中国の核保有を宣言した紙面だ。

 中国は「苦難に満ちた道のりで成功にたどり着いた」と核実験を振り返っている。確かに、当初期待したソ連の技術援助が両国間のイデオロギー対立の激化によって途中でストップし、「自力更生」で開発せざるを得なかった面はある。

 問題はこの「苦難」の背後に中国政府が決して認めようとしない、少数民族の苦しみがあっただけでなく、今なお続いているという事実だ。

 私の故郷、内モンゴル自治区の西部にアラシャン盟という地域がある。アラシャンの最西端にエジナ旗という町があり、中国の宇宙開発基地として有名な酒泉衛星発射センターが置かれている。アラシャン盟はほぼ全域にわたって砂漠に覆われているが、エジナ旗のバヤンボグドという地だけはいくつもの泉が湧き、緑豊かなオアシス草原が発達している。

 58年10月、中国人民解放軍が突然現れ、モンゴル人遊牧民は着の身着のままで追い出された。家財道具を整理して運びたいと懇願した者はその場で射殺され、それ以降、モンゴル人は砂漠の中の流浪の民に転落した。

【参考記事】爆買いされる資源と性、遊牧民を悩ます中国の野心

 表向きは「衛星発射」と称しながら、実際はほとんどが弾道ミサイルの実験。今でも、失敗したミサイルが草原に落ち、モンゴル人の平穏な生活が脅かされている。

核汚染で十数万人の死者

 本来の「酒泉」の地ははるか南の甘粛省にあり、かつて漢王朝が遊牧民の匈奴(きょうど)とにらみ合う最前線だった。中国政府がモンゴル人の古くからの土地に対匈奴作戦時の地名を付けた行為には、少数民族を敵視する意図が隠されている。

 中国は原水爆実験を漢民族の土地で一度も行ったことがなく、すべて少数民族の故郷で実施している。例えば、核開発を進めてきた「国営221工場(第9学会)」と称される研究所は青海省の海北チベット族自治州にある。ここももともとはチベット人とモンゴル人の放牧地だったが、やはり58年9月に人民解放軍がやって来て、原住民を暴力で追放して占領した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中