最新記事
犯罪

「刑務所ビジネス」に群がる金と企業

2016年3月14日(月)17時10分
エリック・マーコウィッツ

 2014年大会での収入は900万ドル、利益は99万7000ドルに上った。展示ブースに加え、ACAはさまざまなスポンサーも募っている。例えばGEOグループは来場者バッジに企業名を入れて6000ドルのスポンサー料を支払った。刑務所用電話の通信事業者テルメイトは、充電ブースの設置でやはり6000ドルを出資している。

【参考記事】プーチンの政敵はやっぱり刑務所暮らし

 民間の刑務所見本市というアイデア自体、誰しも感心するたぐいのものではない。「収益のために受刑者を収容するというシステムそのものが、良からぬ動機を引き起こす原因になる」と、アメリカ自由人権協会ニューオーリンズ支部長のマージョリー・エスマは言う。それが行き過ぎれば、軽微な犯罪で多くの人を刑務所に入れようということになりかねない。

 最たる例はルイジアナ州だ。その受刑率の高さから「世界の刑務所の首都」と呼ばれる同州は、成人人口10万人のうち受刑者が1420人で、全米最大の比率だという。「受刑者を物と見なし、本質的に人間を商品化した司法システムがまかり通っている」と、ニューヨーク・タイムズ紙は指摘している。

「良からぬ動機」は、刑務所関係者の不正につながる可能性もある。ニューオーリンズでは州保安官が州法に違反して受刑者の医療システムに関する高額契約を結んだ例もあったし、ルイジアナ州で刑務所長がサイドビジネスに手を染めていたことが発覚したケースもあった。

 もちろん、ACAの大会はただの展示ブースの場ではない。1階では展示会が行われているが、2階では刑務所長経験者や学者らによる数々のワークショップが開催されている。主要なテーマは司法システム改革だ。

金がかかり過ぎるからこそ儲かる

 興味深いことに、パネリストの中には刑務所産業をめぐる巨額の運営費を問題点として追及する人もいる。まさにそれこそが、この大会をここまで成長させた原動力だというのに。コロラド州の超巨大刑務所の元所長ボブ・フッドによれば、全米の州刑務所に収容される20万人の受刑者に掛かる費用は約70億ドルで、司法省予算の25%を占めるのだという。

 階上でのディスカッションが知性に訴えるものだとするのなら、階下の見本市では商売心に訴えるイベントが繰り広げられている。出展企業に配られたパンフレットの中で、ACAはこのイベントで「最大限の投資利益率を挙げる」コツを紹介している。彼らが言うには、「ブースでは景品やくじで来場者の関心を引く」といいらしい。

 さらにこう記してもいる。「2016年のこの大会が実り多きものとなり、貴社が高い利益を挙げられますように」

[2016年2月16日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フォードEV事業抜本見直し、7車種生産・開発打ち切

ワールド

ウクライナ和平協議、米欧が進展報告も領土問題でなお

ワールド

EU、ロシア産石油取引で新たな制裁 商社幹部など対

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中