最新記事

メディア

メディア管理を強める中国――筆者にも警告メールが

2016年2月25日(木)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

官製メディアの力はIT化の前に崩れつつある(昨年12月、世界インターネット会議を主催してネットにも秩序を求めた習近平) Aly Song- REUTERS

 2月18日、中国における昔の身分を公開することへの警告が中国政府の公的機関から来た。その翌日、習近平総書記が新聞世論工作座談会を開催したことを知る。中国でいま何が起きているのか、当事者として分析を試みたい。

中国政府のシンクタンク中国社会科学院から警告メールが

 2月18日、中国政府のシンクタンクの一つである中国社会科学院社会学研究所から一通のメールが届いた。社会学研究所の公印が捺してある公文書だ。

 そこには「あなたは確かにかつて我が研究所の客員教授だったが、今は違う。もう十数年も学術的交流を持っていない。したがって公的な場において"中国社会科学院社会学研究所客員教授"(現任)という肩書を使ってはならない」という趣旨のことが書いてある。

 さらに「この文書を受け取ったら、必ずすぐに返事をするように」とのこと。

 いったい何が起きたのか?

 あるいは何が起きようとしているのか?

 このような警告メールをもらったのは初めてのことなので驚いた。

 筆者はすぐに返事を書いた。おおむね以下のような内容だ。

――懐かしいお便りをありがとうございます。貴方も書いておられる通り、私はかつて、まちがいなく貴研究所の客員教授でした。したがって「歴任したことがある」と、過去の履歴として書いています。「現任」と書いたことは、ここ十数年ほどありません。過去の履歴を偽りなく書くことは、むしろ義務であり、正当な権利だと思います。ご安心ください。

 ついでに、「なぜまた突然このような公文書を出すのか」に関しても質問をしておいた。

 もちろん返事は来ない。

 何かあるなと思っていると、翌19日、習近平総書記(以下、敬称省略)が党としての宣伝活動に関して重要講話を発表したことを知った。

【参考記事】香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪──国際問題化する中国の言論弾圧

 なるほど。これだったのか。

 社会科学院では、党と政府に何か大きな動きがあるときには、事前にスタッフ全員に緊急招集がかかり、党と政府の方針に忠実に従って行動するよう指令がかかる。

 公文書の捺印日時は2016年2月13日だ。

 つまり1週間以上前から、すべては19日の重要講話に向かって、一糸乱れず動いていたことになる。

党の「新聞世論工作座談会」開催

 19日の中央テレビ(CCTV)は、習近平が人民日報社、新華社、中央テレビ局を訪問した様子を特集番組で伝え続けた。いずれも党と政府の最大宣伝メディア機関である。

 迎える各社の職員たちは、大歓声と熱烈な拍手で習近平を迎え、「好(ハオ)!」という声を一斉に発した。

「好(ハオ)!」というのは、好きか嫌いかではなく、良いか悪いかを評価するときの「良い!」「「すばらしい!」を表現するときに使う言葉だ。たとえば京劇などの芝居を見るときに、すばらしい場面になると、役者さんへの賞賛の言葉を表すためなどに対して使われてきたという習慣がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で

ビジネス

アングル:米国の通関手続き複雑化、関税で代行業者に

ワールド

訪米中の赤沢再生相、ラトニック商務長官と電話会談

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中