最新記事

ブラジル

【写真特集】ブラジルを悩ますロバの野生化

農業の機械化などから飼い主に捨てられて野生化したロバが引き起こすトラブルが社会問題に

2016年1月26日(火)19時00分
Photographs by Nadia Shira Cohen & Paulo Siqueira

農作業や運搬の仕事を担う貴重な存在として重宝されたロバが、今では野生化してドライバーを脅かす

 欧州大陸からブラジルにロバが連れてこられたのは16世紀のこと。気性が穏やかで働き者のロバはその後数百年間にわたり、水の運搬や農作業を担う重要な労働力として国の発展を支えてきた。

 だが水道が敷設され、自動車やバイクが普及し、トラクターなどによる農業の機械化が進んだ20世紀半ば以降、その存在意義は薄れる一方だ。飼い主に捨てられた無数のロバが野生化した結果、最近ではブラジル北東部各地でトラブルを引き起こし、厄介者扱いされるようになってしまった。

 食料を求めて、ロバがゴミ置き場をあさる光景は日常茶飯事。自分たちの集落からロバを閉め出して近隣の町に捨てに行く行為が問題となって、警察が出動したこともある。力が弱くて労働力になりにくい雌から捨てられるケースが多いことも、野生化したロバの繁殖を加速させている。

 ロバが引き起こすトラブルの中でも特に深刻なのは、ハイウエーなどに侵入したロバによる交通事故だ。リオグランデドノルテ州では13年1月から15年6月までの2年半に動物と車両の接触による死亡事故が51件発生しており、大半はロバが原因とみられる。トラックにはねられたロバの死骸が路肩に転がっている光景も珍しくない。

 行政も手をこまねいてきたわけではない。リオグランデドノルテ州当局は11年、ロバ肉を食用に加工して学校や刑務所での給食に使用したり、中国に輸出する案を検討した。しかしロバを食べる習慣がない国民の猛反発に遭い、撤回せざるを得なかった。

 用済みになったロバに活躍の場を与えようとする取り組みもわずかながらある。バナナ栽培を手掛けるトロピカル・ノルデステ社は、バナナの木が並ぶ農園での力仕事にロバを活用。ロバをミツバチから守る防護服を作り、蜂蜜の運搬などに利用する養蜂農家もある。

 ロバのミルクにも注目が集まっている。自然の抗生物質といわれる酵素のリゾチームが人間の母乳の2倍含まれており、リウマチ患者や牛乳アレルギーの子供にいいというのだ。

 赤ん坊のイエス・キリストを背に乗せて運んだという言い伝えから、ロバはブラジルで神聖な存在としてあがめられてもきた。彼らが再び愛される存在となる日は来るのだろうか。


ppdonkey02.jpg

バナナ栽培にロバの力を活用しているトロピカル・ノルデステ社


ppdonkey03.jpg

リオグランデドノルテ州の州都ナタールの海岸ではロバ乗りが観光客に人気

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入の有無にコメントせず 「24時間3

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中