最新記事

人権問題

北朝鮮の「女性虐待」にいよいよメスが入るか

東アジア出身の女性が国連の人権状況特別報告者の後任候補として浮上、金正恩政権には今後さらに厳しい追及が迫るだろう

2016年1月22日(金)17時29分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

女性の人権は…… やりたい放題に見える金正恩(キム・ジョンウン)だが、人権侵害は国外にも広く知られるようになり、厳しい状況に追い詰められている(朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表した2015年10月の労働党創設70周年記念式典の際の写真) KCNA-REUTERS

 今年7月に任期を終える国連北朝鮮人権状況特別報告者のマルズキ・ダルスマンの後任に女性、しかも東アジア出身者が選ばれるとの観測が出ている。北朝鮮で、女性に対する人権侵害が横行している事実は国際社会でも周知されてきており、女性の特別報告者が選任されれば、その問題に鋭く切り込むであろうことは容易に想像できる。

(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」

 もちろん北朝鮮の人権侵害は女性のみならず、あらゆる分野に及んでいる。あまりにも広範囲で根が深いことから、核やミサイルと違い、とうてい取引できない問題であり、金正恩体制にとっては大きな足かせとなり続ける。

 北朝鮮の残虐な人権侵害の実体は、挙げればキリがないが、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の最終報告書(以下、国連報告書)には次のような衝撃的な証言が収められている。

「母とその子は収容所内の懲罰棟に連行され、赤子は犬のエサの器に投げ込まれた」

(参考文献:国連報告書「政治犯収容所などでの拷問・強姦・公開処刑」

 これ以外にも、北朝鮮の体制が、朝鮮人女性が外国人男性との間でできた子供を産むのを嫌い、強制堕胎や乳児殺しまで行っている事実などを国連報告書は指摘している。

 こうした北朝鮮の人権侵害に対する国連や国際社会の追及は決して終わることがない。北朝鮮自身が自浄能力を発揮する、すなわち金正恩自身が断罪されない限り、経済復興も改革・開放も進まないが、それは同時に体制崩壊にもつながりかねない。

 次の国連北朝鮮人権状況特別報告者が女性となれば、北朝鮮にとっては極めて厄介な存在となって立ちはだかるだろう。一見、核やミサイルでやりたい放題に見える金正恩体制。しかし、人権問題については極めて厳しい状況に追い詰められているのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中