最新記事

紛争

【写真リポート】タイ深南部、つかの間の安息

イスラム系組織が分離独立を目指してテロ活動を続ける「ディープサウス」の現状

2016年1月18日(月)17時00分
郡山総一郎(写真家)、山田敏弘(ジャーナリスト)

紛争の日常 ヤハー市街地の警備にあたる兵士

 年間3000万人近い観光客が世界中から押し寄せる東南アジアの楽園タイ。

 微笑みの国として知られる仏教国タイには、あまり知られていない別の顔がある。マレーシアとの国境に近いディープサウス(深南部)と呼ばれる地域で続く激しい紛争だ。今も爆弾テロ事件などが毎月のように発生している。

 タイ政府は深南部で、住民の多数派を占めるマレー系イスラム教徒を長く迫害してきた。そうした背景から、60年代に入るとタイからの分離独立を目指すイスラム系組織が生まれた。そして麻薬取引などを資金源とする武装勢力が、仏教徒を狙った攻撃を始めるようになる。近年では国軍や地元警察、さらに自警団までが紛争に加わり、2004年の紛争激化からこれまでに6500人以上が命を落としている。

 2013年2月、タイ政府はついに重い腰を上げ、武装勢力との停戦交渉を開始するが、国内情勢の悪化で交渉は停止。2014年12月になってようやく、タイ政府とこの地域に強い影響力があるマレーシア政府が交渉再開に合意するに至った。

 その甲斐あって、2014年の紛争の死者数は246人と、2004年以降最も死傷者が少ない年となった。

 戦闘が下火になっている現在、街では緊張感が緩和され、住民は落ち着きを見せている。ただ散発的なテロ事件は相変わらず発生している。戦闘やテロが、いつ再び激化してもおかしくない不安定な状況は変わらない。

 束の間の落ち着きは、嵐の前の静けさか、それともこのまま紛争は終息へと向かうのか――。今年のタイ深南部の情勢が注目される。


prthai006.jpg

深南部では週末に鳥の鳴き声を競う競技会が各地で開催される(ヤラー)


prthai005.jpg

主要道路にはいくつものチェックポイントが設置されている(クロンピナン)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる

ワールド

モスクワで爆弾爆発、警官2人死亡 2日前のロ軍幹部

ビジネス

日経平均は4日ぶり小反落 クリスマス休暇で商い薄く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中