最新記事

米大統領選

悩める共和党の見えない自画像

トランプの暴走で混乱と迷走を続ける共和党は、アイデンティティーの危機にさらされている

2016年1月8日(金)16時51分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

クリントンに勝てる候補? 共和党主流派はトランプの党候補指名獲得を阻止したいと考えているが、お気に入りのジェブ・ブッシュは振るわず、若く弁舌爽やかな「救世主」マルコ・ルビオ(写真)もトランプとの首位争いに持ち込むだけの勢いを得るのは難しい Mike Blake-REUTERS

 何が駄目だったのか――12年の米大統領選で惨敗を喫した共和党は、その答えを探した。民主党候補のオバマ大統領が、共和党候補に大差をつけて再選を決めた理由は? 次期大統領選で共和党が勝利する方策は?

 党の長老たちの依頼で作成された報告書(敗北を分析する内容から「検死解剖」とあだ名された)は、遠慮のない批判を展開した。いわく、共和党は「恐怖感を与える」「偏狭」で「時代遅れ」な「頭が固い高齢男性」の政党になっている、と。

 共和党が復活するためには、女性や若者、少数派の支持を獲得することが不可欠だと、報告書は指摘した。彼らこそ、新たに台頭した有権者層であり、08年大統領選でオバマに予想外の勝利をもたらし、12年の再選を支えた人々だからだ。

 だが報告書に意味はなかった。4年近くたった今、大統領選の本格的な幕開けとなるアイオワ州党員集会を2月1日に控えるなか、共和党は自ら描いたあるべき将来像を忘れ去り、正反対の方向へ突き進んでいるらしい。

 共和党候補を目指す者たちの一部は、移民を犯罪者呼ばわりし、対メキシコ国境に壁を建設せよと訴える。さらに、イスラム教徒などの少数派に対する差別的な政策を信奉し、難民に「宗教テスト」を行えという憲法に反する主張をしている。共和党がまさに獲得すべき有権者層、なかでも急拡大するヒスパニック層の離反を願っているかのような態度だ。

 11月の大統領選までに、確実に起こると言えることが2つある。

 まず、民主党候補はヒラリー・クリントン前国務長官に決定する。よほど意外な展開がない限り、何者もクリントンの候補指名を阻めないはずだ。

 一方、主流派と反主流派が激突する共和党では、その戦いに生き残れた人物が大統領選候補になる。ただ、両派は互いを攻撃し合い党が徹底的に分裂するかもしれない。そうなれば、本選でクリントンに勝つ見込みはゼロになると党指導部は憂慮する。

 この懸念は正しい。事実、共和党の有力候補者らの言動は既に党の評判を大きく傷つけている。

 そもそも、支持率トップの候補者の追い落としを画策する時点で問題がある。指導部や寄付者など、共和党内の多くの人々は今や大っぴらに、不動産王ドナルド・トランプをいかに選挙戦から追い出すか、論じ合っている。トランプが共和党有権者の間で、支持率首位を維持しているにもかかわらずだ。

 15年12月には、共和党幹部が秘密会合を開催。予備選で候補者が決定せず、7月の共和党全国大会での投票にもつれ込んだ場合、トランプが指名獲得に必要な投票数を手にする事態を防ぐ方法について話し合った。

救世主は若きルビオに?

 主要政党の内部でこんな混乱が繰り広げられるのは、民主党が候補者指名でもめにもめた52年の大統領選以来だ。そこから分かる事実とは? 共和党はトランプを大統領選候補に指名するくらいなら、非民主主義的な手段でほかの候補者を選ぶほうがましだと考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中