最新記事

米大統領選

悩める共和党の見えない自画像

2016年1月8日(金)16時51分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

 問題は、主流派のお気に入りであるジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事がまったく振るわないことだ。ブッシュが共和党候補指名レースに出馬した当時は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の弟であることが、足を引っ張りかねないと懸念された。だが、現実はそこまでにも至っていない。豊富な選挙資金や党中枢とのコネはあっても、ブッシュ本人に魅力的な候補者としての資質がない。

 党内エリート層は、草の根の保守層の支持でトランプ、または超保守派のテッド・クルーズ上院議員が党トップに君臨する事態を恐れ、ブッシュ以外の候補者に目を向けざるを得ない状況になっている。

 彼らにとっての救世主は、マルコ・ルビオ上院議員かもしれない。若く弁舌爽やかなルビオは、キューバ移民2世で労働者家庭の出身。クリントンとは、あらゆる点で対照的だ。

 だが難点は、同じく主流派の支持を求めて争うライバルが多いこと。トランプとの首位争いに持ち込むだけの勢いを得ることは、ルビオには不可能に近い。泡沫候補が脱落すれば事情は変わるかもしれないが、それまでの間、共和党の悩みは続く。

 ただし、民主党にも問題がないわけではない。大本命のクリントンは、好き嫌いが分かれる人物だ。政治の世界で長いキャリアを持つ彼女には、根っからの民主党支持者でさえ飽きていると言えなくもない。

 クリントンが大統領選で勝利したとしても、各州政府は共和党優勢のままで、民主党が近い将来に連邦下院で多数派に返り咲く可能性もないため、政治が停滞するのは確実だ。さらに悪いことに、民主党指導部は私的な場で、若手の有望株が不足していると認めている。

 とはいえ民主主義体制では、政党が浮き沈みを経験するのは当たり前。それがあるから、政党は進化する。少なくとも民主党は、民主党を定義するものが何かを心得ている。一方、共和党の側はそう言い切れない。

 今の共和党はアイデンティティーの危機に見舞われている。大統領選の結果がどうであれ、共和党は自らが象徴するものを理解し、それ以外のものを捨て去らなければならない。

[筆者]
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)
スレート誌政治・外交担当エディター。カーネギー国際平和財団客員研究員や外交専門誌フォーリン・ポリシー編集長などを経て現職

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

[2016年1月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃

ワールド

スウェーデン、NATO新目標の国防費対GDP比5%

ワールド

イスラエル・イラン衝突激化、増える犠牲 国際社会は

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中