最新記事

ニュースデータ

「団塊、団塊ジュニア、ゆとり」 3世代それぞれの人生の軌跡

2016年1月5日(火)15時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

 しかし若気の至りに社会成長の追い風が加わったためか、ハイティーンの頃は非行に走って改造バイクを乗り回し(カミナリ族)、大学に入ったら学生運動で大暴れする。最近になって、高齢者の暴力犯罪が激増しているが、ちょうどこの世代にあたる。90年代半ばから最近にかけて、60歳以上の高齢者の暴行犯検挙人数は25.9倍になっている<表1>。当該年齢人口が1.6倍しか増えていないことを考慮すれば、凄まじい増加率だ。定年退職したことで、若い頃の血気が再燃しているのだろうか。

maita160105-chart02.jpg

 この団塊世代は、中高年期に逆風に遭遇する。50歳になった1998年に日本経済は急激に失速し、年間自殺者数が3万人に達する。その多くがリストラの憂き目にあった中高年、つまりこの世代の男性だった。定年間際の2007年には「消えた年金」が発覚し、翌年にはリーマンショックが起きるなど、老後の生活は幸先の良くないスタートを切る。「暴走老人」の増加は、そんな現状への反発とも受け取れる。

 その団塊世代の子どもたちにあたるのが1972年生まれの団塊ジュニア世代。高度経済成長が終わった後に生まれた、生まれながらの「消費者」だ。幼少期からテレビを見て育ち、テレビゲーム(ファミコン)に興じた。荒れる学校や戦後の非行ピークを担ったのは少し上の世代だが、中学生の時にいじめが社会問題化した、いじめ第一世代だ。

 同世代の人口が多いため、激しい受験競争も経験した。この世代が18歳だった1990年の大学入試では、受験者の45%が不合格になっていたとみられる(「大学入試9割は合格の時代」『日経デュアル』)。それだけに、競争のメンタリティが強く刻印された世代でもある。

 成人期はバブル崩壊と共に始まり、就職・結婚・出産といったイベントが、不況の深刻化した時期と重なっている。こうした人生のイベントを乗り越えた人もいれば、そうでない人もいる。その格差が拡大したのがこの世代だ。親世代(団塊世代)との軋轢を抱えている人も少なくない。

 最後の1995年生まれの世代には、いろいろなネーミングがある。ゆとり学習指導要領(2002年施行)で育った「ゆとり世代」、不況期で育ったことから欲を持たない「さとり世代」など。しかし最大の特徴は、幼少期からITに慣れ親しんだ「デジタル・ネイティブ世代」であること。ネットでコミュニケーションをする世代で、スマホを四六時中眺めている。その一方、固定電話でのやり取りの作法を知らぬ人もいて、上の世代を驚かせる。

 この世代は現在20歳で、これから社会に参入してくる層だ。ITを駆使した、新たな働き方を提案してくれるだろう。就労の世界だけでなく、家族や世帯の形態を変えてくれるかもしれない(事実婚、同性婚、シェアハウスの広がりなど)。この世代の力をどれだけ引き出せるかに、今後の日本の命運はかかっている。

 以上、3世代の生きた軌跡を見てみたが、もし全世代が一緒に集まったら、おそらく軋轢は避けられない。しかし、それでは社会は成り立たない。それぞれの世代は、考え方や価値観を異にしながらも、共に日本社会を支える存在なのだ。

 今年2016年が、世代間の理解が深まる年になることを願いたい。


筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中