最新記事

民主化

中国民主活動家締めつけに見る習近平の思惑

2015年11月30日(月)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 それは中国を愛するがゆえに批判しているのだ。

習近平は何を恐れるのか――?

 ひとことで言えば、習近平は一党支配体制が崩壊するのを恐れている。自分がその崩壊を招いた最後の「紅い皇帝」になることを恐れている。(反腐敗運動を権力闘争だとする日本の中国研究者は、中国の現実を分かっていない。胡錦濤政権のチャイナ・ナイン時代と習近平政権のチャイナ・セブン時代が根本的に違うことを理解していないのだ。その視点では習近平が何を怖がっているか、これら知識人の逮捕で何が見えるのかを分析することはできないだろう。)

 一連の逮捕に関して特徴的なことが見えてくる。それを列挙する。

1. 先ずはエリート層が6.7億人に達する網民(ネット市民、ネットユーザー)のオピニオンリーダーになることを恐れている。特に新公民運動はエリート層がけん引している新しい形の民主化運動だ。これが広がらないうちに何とか芽を摘み取りたいと思っている。幼児や高齢者を除けば、まもなく7億人に達する網民の数は、意見を表明できる人民の数の圧倒的多数だ。次の民主化はネット空間から起きることを習近平も知っているのである。だからオピニオンリーダーとなり得るエリート層を逮捕する。

2. 鉄流ら、高齢の発信者は、残り時間が少ないことを覚悟し、恐れを知らない。命を賭けて真実を残そうとしている。鉄流はネット空間で情報を発信する作家なので、逮捕される寸前にもチャイナ・セブンの一人でイデオロギーを統率する劉雲山を激しく批判する論評を発表している。政府を批判する知識人は逮捕するという習近平の方針だ。毛沢東帰りの特徴の一つである。

3.最後の理由は、11月24日付の本コラム<中共老幹部が認めた「毛沢東の真相」――日本軍との共謀>でも書いたように、中共の老幹部たちが「中国共産党がかつて何をやったかを明らかにする運動」を始めたからである。鉄流氏も「日中戦争時代に中共は何をやっていたのか」に関する事実を指摘している。これに関しては次回に回そう。

(なお、「チャイナ・ナイン」は胡錦濤世間時代の中共中央政治局常務委員9人のことで、「チャイナ・セブン」は習近平時代の中共中央政治局常務委員7人のことを指す。いずれも筆者が命名した)

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中