最新記事

シリア

2人殺害、ロシア軍機撃墜でわかった下界の危険

12時間に及ぶ救出作戦で操縦士の1人は生還できたが

2015年11月26日(木)17時06分
コナー・ギャフィー、ジャック・ムーア

復讐の連鎖 シリアの反体制派やISISを空爆してきたロシアは地上から見れば憎むべき敵 Ministry of Defence of the Russian Federation/Handout via Reuters

 シリアとトルコの国境付近で24日、トルコ軍機に撃墜されて脱出したロシア軍機の操縦士2人のうちシリア軍に救出された1人が、トルコ領空に入った可能性はないと証言した。もう1人は殺害された。救出に向かったヘリコプターの搭乗員の1人も命を落とした。

 ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は12時間に及ぶ救出作戦でロシア軍機のコンスタンチン・ムラフチン操縦士を救出し、シリア領内のロシア軍基地に「無事」連れ帰ったと発表した。

 トルコ側はロシア軍機を攻撃する前、5分間に10回警告したと主張しているが、救出された操縦士はそれは事実ではないと否定したと、タス通信が伝えた。ロシア機はシリア領空を飛行中で、警告はいっさいなかったという。

「1秒たりとも(トルコ領空に迷い込んだ)可能性はない。高度6000メートルを飛んでおり、視界も良好だった」と、ムラフチンはロシアの国営テレビ、ロシア1の取材で語った。「無線による警告も視覚的な警告もいっさいなく、通常通り戦闘コースに向かって飛行していた」

 ロシア軍の発表によれば、もう1人の操縦士はシリアの反体制派の攻撃を受けて死亡した。ヘリコプターで操縦士の救出に向かったロシアの海兵隊員1人もシリアの反体制派に殺害されたという。

 ロシア軍のセルゲイ・ルドスコイ中将によると、救出に向かった2機のミル8ヘリコプターのうち1機はシリア北部で2人の操縦士を捜索中に小火器で攻撃されたという。

 一方、シリアの反体制派は、対戦車ミサイルでヘリを吹き飛ばしたと声明を出した。イギリスに拠点を置く人権団体「シリア人権監視団」の情報では、攻撃を受けたヘリはシリア北部のラタキア県に緊急着陸したところで、もう1機はラタキアに近いシリア北西部のロシア軍基地フメイミムに避難した。

ロシア兵の遺体とされる映像を公開

 ロシア軍機が撃墜された国境付近はシリアのトルコ系少数民族トルクメン人の支配地域。トルクメン系の反体制派は操縦士を「両方」殺害したと声明を出し、ロシア兵の1人のものとされる遺体の映像を公開した。

 トルクメン系反体制派はトルコ政府に支援されているが、シリアのアサド政権に敵対する武装勢力を攻撃対象にしているロシア軍の空爆にさらされてきた。トルコはロシアに対して繰り返しこの地域での空爆を止めるよう求めてきたが、ロシアはここにはISIS(自称イスラム国、別名ISIL)がいると主張した。

 戦闘爆撃機の撃墜を受けて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア軍機を攻撃から守るためフメイミム基地に地対空ミサイルシステムS-400を配備すると発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中