最新記事

英中関係

ダライ・ラマ効果を払拭した英中「黄金」の朝貢外交

2015年10月22日(木)17時39分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 もっとも、すべての英国人が諸手をあげてオズボーン主義に賛同しているわけではない。中国の人権侵害に批判的なチャールズ皇太子は晩餐会を欠席し、静かに抗議の意思を表した。英週刊誌ザ・スペクテイターは9月末に「ジョージ・オズボーンによる、中国への異常な叩頭」と題した記事を掲載したが、「英国の対中政策は"マネー、マネー、マネー"です」とのダライ・ラマ14世のコメントを紹介している。

 記事タイトルに使われた「叩頭」については解説が必要かもしれない。1793年、英国の外交官ジョージ・マカートニーは通商条約締結を求め清朝の乾隆帝に謁見したが、朝貢使節として扱われ、額を床に打ちつける三跪九叩頭の礼をとるよう要求された。マカートニーはこれを拒み、交渉は決裂する。200年あまりが過ぎた今、英国はついに中国の前にひざまずいたという皮肉が込められている。

黄金時代はいつまで続くか

 英中首脳会談後の記者会見で、キャメロン首相は中国の人権問題について質問をされ、「人権を話すには経済関係の発展が重要だ」と回答した。経済成長により多くの人々を貧困から救い出したことこそが中国における人権の達成だとするのが中国共産党の立場。中国の主張そのままの回答を見せた。

 英国は日本という先例に学ぶべきかもしれない。日本は小泉政権以後に、首脳の相互訪問によって急激な対中関係改善を実現した。温家宝首相(当時)が野球をし、胡錦濤国家主席(当時)が愛ちゃんと卓球をするというパフォーマンス満載で黄金時代が演出されたが、その後に何が待っていたのかは日本人ならば誰もが知っているとおりだ。

胡錦濤と福原愛選手の卓球を福田首相が見守るという日中黄金時代(2008年)

 中国ヨイショを貫く英国外交だが、黄金時代が幸せであればあるほど、その後に到来する反動は辛いものになるかもしれない。

[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国が「米国のエネルギー」購入プロセス開始、トラン

ビジネス

独VW、第3四半期は赤字に転落 ポルシェ戦略見直し

ビジネス

独プーマ、来年末までに900人を追加削減へ 売上減

ビジネス

見通し実現の確度は高まっている、もう少しデータ見た
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中