最新記事

政治

官僚たたきは正しかったのか

政官関係のもう一つの見方

2015年6月19日(金)18時00分
大西 裕(神戸大学大学院法学研究科教授)※アステイオン82より

(c)iStock.com/Mokai

 先日出張先の韓国ソウルで、日本に留学経験のある現地の友人と日本政治をどう見るのかについて、意見を交換することがあった。周知の通り、日韓関係は国交回復後最悪の状態が続いている。韓国政府では日本通の官僚達が政策立案の現場から遠ざけられているという話もよく耳にする。日本国内でも、韓国はどうして中国にすり寄るのかが話題になることがあるが、逆にどうして日本から遠ざかるかも疑問である。しかしだからといって日本に関心がなくなっているわけではなく、日本に留学経験のある研究者に日本政治をどう理解したらよいのか質問があるのだという。

 商売繁盛で結構かと思いきや、このことは彼にとって悩みの種でもあるようだ。というのも、彼が留学時代に直接見、学んだ日本政治はバブル景気で繁栄していた時代のそれである。その後日本政治は大きく変わっている。もはや五十五年体制は存在しないし、族議員政治もなければ中央―地方関係も変質している。しかし、そうした新しい日本政治を見通すものが、ないというのである。どうしても昔の見方に頼って見てしまうし、それで分析し人々に伝えることになる。しかしそれが本当に正しいのか。確たる自信がない。

 彼のいうことはかなりの程度、正しいと思われる。韓国人留学生は現在でも日本に一定数来ているが、かつてのように日本政治に関心を持って研究するというタイプの学生は明らかに減ってきている。それゆえ、韓国で日本政治解説の主流となっている研究者といえば、先ほど挙げた、バブル時代に留学した人々なのである。

 ただし、彼のいうことは正しいとはいえ、その責任は彼の、あるいは韓国における日本政治研究の遅れによるものとは言い難い面がある。実は私たち日本人もまた、現代日本政治を見通す視角を持っているのかというと、そうとは言い難いからである。一九八〇年代に成立した概念を使ってマスメディアで政治解説をする人はよく見るし、それに代わるものを明確には提示できてはいないようである。

 おそらく、そうした古い認識枠組みのうち、現実政治に意味を持ってしまったものの一つが、官僚支配であった。二〇〇九年から二〇一二年までの民主党政権時代、とりわけ鳩山総理の時代、政権と与党民主党は、日本政治の問題点を官僚支配であると理解し、意思決定過程から極力官僚を排除するように様々な改革を行なった。民主党が政権を去った後も、官僚が既得権を守るために国益を阻害しているという議論は絶えることがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中