最新記事

イデオロギー

韓国リベラルは北朝鮮の手先か

2014年12月24日(水)19時31分
スティーブン・デニー(韓国政治学者)

歴史が生んだ複雑な現状

 こうした態度自体に問題はない。だがそこから派生した脱北者の扱い、特に金大中(キム・デジュン)と盧(ノ・)武鉉(ムヒョン)政権時代(98〜08年)のやり方が、左派の態度を道義的にどこか怪しいものにしている。
スタントンが我慢できないのはそこだ。「金と盧の政権時代、左派は人権活動家や脱北者、メディア、脚本家を検閲した。南における北の思想警察の役割を果たした」と、彼は前出の記事で言う。確かに、97年に韓国へ亡命した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記は「大物脱北者」にもかかわらず、亡命後は目立った動きがなかった。当時の韓国は金の政権下にあったからだ。

 スタントンの批判にはそれなりの理由があるものの、彼の見方は韓国の左派と政治文化の両者を過度に単純化している。韓国の左派すべてに「偏狭」のレッテルを貼り、彼らの政治態度は「独裁主義的」と断じるのはフェアではない。

 スタントンは対北政策というレンズを通して韓国の国内政策を見る。これでは、ものの見方にゆがみが生じかねない。北朝鮮への制裁を強く支持するスタントンは、制裁が金正恩(キム・ジョンウン)体制の崩壊を実現すると信じている。

 脱北者に対する左派の冷淡な態度に憤ることが間違っているのではない。韓国の政治文化は、スタントンが考えるほど単純ではないと言いたいだけだ。

 現代の韓国の左派は、長い社会的・政治的歴史の産物だ。左派は独裁政権時代の弾圧にも、南北和解や将来的な統一にとって害がある(と彼らが見なす)政策にも抵抗を続けてきた。

 過去から問題含みの遺産も受け継いでいる。自国の体制変化のために戦った陣営と、北の故・金日成(キム・イルソン)主席の主体思想を支持した陣営に分裂した事実だ。左派政治家の中に、いまだに北朝鮮を支持する者たちがいるらしいことも混乱に拍車を掛けている。
求められているのは変化

 とはいえ、すべての左派が過去を引きずっているわけではない。例えば、新政治民主連合の安哲秀(アン・チョルス)議員は、左派の「革新的」側面を代表する人物だ。

 同じく新政治民主連合に所属する朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長は、保守的な韓国の政治文化においてLGBT(レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の権利を支持すると表明している。彼らは今のところ党の「顔」とは言えないが、これからの左派を象徴している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、英との技術協定を一時停止か 貿易分野でも譲歩要

ビジネス

米アトランタ連銀、新総裁選出に着手 「地元とのつな

ビジネス

ネトフリ、ワーナー買収巡る立場に変更なし 従業員宛

ワールド

成長戦略会議・分科会、人選で若手・女性の起用指示=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中